長野県弁護士会
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犯罪被害者等支援会長声明 ( 2021-01-13 ・ 158KB ) |
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長野県及び長野県下のすべての市町村に犯罪被害者等の支援に特化した条例が制定されることを求める会長声明
1 平成16年に犯罪被害者等基本法(以下「基本法」という。)が制定され、犯罪被害者等(犯罪等により害を被った者及 その家族又は遺族をいう。)が、個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有することや、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けることができるような施策を講ぜられること等の基本理念が定められた。
2 基本法には、 国だけでなく地方公共団体にもこれらの基本理念にのっとり、その地方公共団体の地域の状況に応じた被害者等を支援する施策を策定・実施する責務があると明記されている。
かかる責務を果たすため、近年、地方公共団体において犯罪被害者等の支援に特化した条例(以下、「条例」という。)を制定する動きが広がっている。 令和2年4月1日現在、21都道府県、7政令指定都市、326市区町村において条例が制定されている(令和2年版犯罪被害者白書)。さらに、現在においても複数の県や市区町村において条例の制定が検討されているとのことである。 条例が制定されることにより地方公共団体の責務や支援内容、被害者等の権利が明確化され、計画的継続的な支援活動が可能となり、また、支援に当たる行政職員や地域住民の意識向上にもつながることが指摘されている。 3 長野県内では、長年、県にも市町村にもまったく条例がなかったが、令和2年9月18日に埴科郡坂城町で県内初の条例が制定された。
その後、長野県議会9月定例会本会議において、条例についての代表質問が行われ、これに対し、阿部守一知事が条例の制定も含めて、具体的な対応を検討していきたいと述べるなど、条例制定に向けた気運が高まっている。 長野県内においても犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会の実現に向け、新たな一歩が踏み出されたことは大いに歓迎されることである。 4 基本法には、国だけでなく地方公共団体にも「相談及び情報の提供」、「損害賠償の請求についての援助」、「給付金の支給に係る制度の充実等」、「保健医療サービス・福祉サービスの提供」、「犯罪被害者等の二次被害防止・安全確保」、「居住・雇用の安定」、「刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備」等の各項目について、施策を講ずることを求めており、条例には最低限これらの項目について、規定されるべきである。
5 また、長野県は全国第4位の広い面積と全国第2位の77市町村という多くの市町村をかかえている点に特徴がある。
まず、総合的かつ計画的な犯罪被害者支援を実現するためには、長野県が、県下の各市町村の指針となるべき施策を盛り込んだ条例を制定し、リーダーシップをとることや各市町村との連携の軸となることが不可欠である。かかる条例の制定は、長野県が掲げる「最高品質の行政サービスを提供し、ふるさと長野県の発展と県民のしあわせの実現に貢献」するとの行政経営理念からも要請されるところである。加えて、観光地である長野県の特性から県内に住所を有しない犯罪被害者に対する支援内容を規定することも検討されるべきである。 そして、長野県下の各市町村においても、第一次的な相談窓口としての役割や、具体的な住民への支援を実施する内容を定めた条例が制定されるべきである。 例えば、「給付金の支給に係る制度の充実等」については、長野県と市町村が連携し、住民の生活に密着したサービスの多くを担っている市町村においては簡易かつ迅速な手続による生活費の支給等の支援を行い、また、市町村よりも豊富な人員や予算を有する長野県においては、より大規模な経済的支援を行うこと等も期待される。 地域の状況に応じ特色を反映した条例の制定のため、当会としても、これまで「犯罪被害者等支援条例」のモデル案を作成し自治体に提供するなどして働きかけを行ってきたところであるが、今後も条例の研究や具体的な条例・条文の検討策定等について協力を惜しまない。 6 以上から、当会は、長野県及び長野県下のすべての市町村に対して、犯罪被害者等の支援に特化した条例を制定するよう求める。
令和3年1月12日
長野県弁護士会 会長 中 嶌 知 文 |
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幼保無償化制度の対象とすることを求める ( 2021-01-14 ・ 153KB ) |
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外国人学校の幼児教育・保育施設を幼保無償化制度の対象とすることを求める会長声明
1 子ども・子育て支援法改正法が2019年10月1日から施行され、幼児教育・保育の無償化制度(以下、「本件無償化制度」という。)が始まっている。
本件無償化制度は、幼稚園、保育園、認定こども園に加えて認可外保育施設等も対象として進められている。一方、インターナショナルスクール、ブラジル人学校や朝鮮学校等学校教育法第134条に基づき各種学校としての認可を受けたいわゆる外国人学校の幼児教育・保育施設(以下、「外国人学校幼保施設」という。)は、「幼児教育を含む個別の教育に関する基準がなく、多種多様な教育を行っており、また、児童福祉法上認可外保育施設にも該当しないため、無償化の対象とはならない」として、本件無償化制度の対象から除外された(「幼児教育・高等教育無償化の制度の具体化に向けた方針」2018年12月28日関係閣僚合意)。 2 しかし、各種学校である外国人学校幼保施設は、学校教育法第134条に基づき各都道府県知事の監督に服しながら幼児教育を行っている。また、多種多様な教育を行っている認可外保育施設が本件無償化制度の対象とされている以上、多種多様な教育を行っていることは、各種学校を本件無償化制度の対象外とする理由にならないはずである。
そもそも、「全ての子どもが健やかに成長するように支援する」という子ども・子育て支援法の基本理念に照らせば、外国人学校幼保施設に通っている子どもであっても無償化制度の対象とするのが同法の趣旨に適うものであり、外国人学校が各種学校であって認可外保育施設に該当しないことを理由に、外国人学校幼保施設に通っている子どもを本件無償化制度の対象外とすることは、合理的理由のない差別であって、憲法第14条、自由権規約第2条1項、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約第2条1項に反し、許されない。したがって、国は、本件無償化制度を広く外国人学校幼保施設にも適用するよう、速やかに法改正をするべきである。 3 国は現在、国と地方自治体が協力して支援を行う制度を検討するための事業として、地域における小学校就学前の子供を対象とした多様な集団活動等への支援の在り方に関する調査事業(以下、「本件調査事業」という。)を行っている。
しかしながら、本件調査事業は、地方自治体が地域にとって不可欠であると判断して既に支援事業を行っている施設が対象であり、また、調査対象施設として申請されるか否かについても地方自治体に委ねられている。 外国籍の子どもやそれにかかわる外国人学校幼保施設が差別なく扱われることは、全国一律の判断が求められるところであるが、本件調査事業のやり方では地域的格差を生じかねず、今後検討される国による支援策も、地方自治体が支援している施設が前提になることが推測され、その場合、外国人学校幼保施設が一律に無償化の恩恵を受けられることにはならないのではないかとの懸念を抱かざるをえない。 4 よって、当会は、国に対し、本件無償化制度を外国人学校幼保施設にも適用するよう、速やかに法改正をすることを求める。
なお、地方自治体に対しては、この法改正がなされるまでの間、上記差別を実質的に解消するために、外国人学校幼保施設に対し広く積極的に財政支援を実施することを求める。 2020年(令和2年)11月20日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文 |
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送還忌避等会長声明 ( 2020-11-04 ・ 420KB ) |
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「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明
2020年(令和2年)10月14日
長野県弁護士会 会長 中 嶌 知 文 法務大臣の私的懇談会である第7次出入国管理政策懇談会の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「専門部会」という。)は,2020年(令和2年)6月19日,「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を発表し,同年7月14日,法務大臣に本提言を提出した。
本提言には,退去強制令書の発令にあたり本人の事情を適切に考慮するための手続の充実・改善や在留特別許可の考慮要素や基準の明確化,退去強制令書が発付された者が早期出国に応じる場合に次回入国時に早期の上陸・在留を可能とする仕組みの制度化,常勤医師の確保・治療拒否者に必要な医療上の措置を取る等被収容者の処遇を改善する具体的措置,仮放免の要件・基準の明確化等,評価すべき提言も幾つかある。これらの点は速やかに制度化すべきである。そもそも,政府は,昭和27年の第13回国会において,昭和26年11月1日に施行された出入国管理令(昭和26年政令第319号)を法律に改正する際,退去強制手続が人身の自由を侵害する以上刑事訴訟法に準じた手続保障が必要であるという指摘を,「外国籍の者に国外へ出てもらう退去強制手続は行政手続であって刑罰ではないことが国際慣例である」旨繰り返し強調して排除した 。その結果,現在の諸手続が構築され,以来,70年近くにわたって,適正手続の保障を怠ってきたことが,今日の国際社会から厳しく非難される事態を招いているのである。人身の自由を著しく制約する出入国在留管理行政の各手続にも適正手続が憲法上保障されるべきことからすれば,上記提言はごく当たり前ともいえることである。 他方,本提言は,日本国から退去しない行為に対する罰則の創設,一定の難民認定者から送還停止効を外す措置の導入,仮放免された者の逃亡等の行為に対する罰則の創設の3点を含み,また収容期間の上限を明確に定めることは提言していない。当会は,以下のとおりこれら4つの点に強く反対する。 1 日本国から退去しない行為に対する罰則の創設について
本提言は,退去強制令書の発付を受けた被退去強制者に対し,送還に必要な渡航文書の発給申請や一定の期日までの出国を義務付ける命令制度の創設と,それらの義務の履行を確保する目的で命令違反に対する罰則の創設を提言している(以下「退去強制忌避罪」という。)。 被退去強制者が日本国から退去することができずにいる事情は様々であり,国籍国に帰国すれば迫害の恐れのある者,子どもが日本国で生まれ育って教育を受けてきたため日本語しか話せず,国籍国へ帰国した場合は教育を受けることすら期待できない者等も含まれる。これらの者は,やむを得ず難民認定申請を繰り返し行ったり,退去強制令書の発令に対して抗告訴訟を提起したり,再審情願等職権発動を求めて在留特別許可を求める活動を適法に行い,あるいは将来行おうとすることもある。これらの行為をしたり,しようとしている間に退去強制に応じないのは権利行使に伴う当然の帰結であり,これらの活動後に在留資格を付与されたり在留特別許可を受けたりすることは珍しくない。実際,2018年に退去強制令書が発付された後に仮放免となった者は523名,在留特別許可となった者は1371名もいるのである 。退去強制忌避罪の創設は,これら正当な権利行使をしている者も犯罪者にしかねず,これらの者の公正な裁判を受ける権利(日本国憲法第32条,市民的及び政治的権利に関する国際規約第14条第1項)を侵害するものといえる。なお,本提言は,対象を罰則による間接強制を伴う退去義務を課すことが真に必要となる者に限定されるべきとしているが,恣意的判断や運用を排除できるほどの明確な構成要件を定めることは困難と言わざるをえない。 さらには,退去強制忌避罪の創設は,被退去強制者の人権を侵害するにとどまらずに同人の周辺にも脅威を及ぼす。すなわち,被退去強制者が権利を実現するために退去強制に応じない間,人道上の視点からこれらの者に対して援助の手を差し伸べる者は,行政書士や弁護士等の専門職に限らず,NGOや一般市民等にも多数存在する。退去強制忌避罪の創設はこれらの者をも共犯者の立場にすることも可能であるため,これらの重要な人道上の活動が著しく萎縮する結果を招くことも強く懸念される。 以上のとおりであるから,当会は退去強制忌避罪を導入することに反対する。 2 一定の難民認定者から送還停止効を外す措置の導入について
本提言は,難民認定申請がなされると難民認定手続終了までの間は退去強制することはできないとする送還停止効(ノン・ルフルマン原則(難民の地位に関する条約第33条第1項,難民の地位に関する議定書第1条第1項),出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)第61条の2の6第3項)に,「一定の例外,例えば,従前の難民不認定処分の基礎とされた判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定申請者について,速やかな送還を可能とするような方策を検討すること」を提言している。 この送還停止効の例外措置の導入は繰り返される難民認定申請に対する対抗措置と位置付けられているが,自ら加入し,国内法にも明記した条約上の大原則に例外を設けるためには,よほど明白で重大な立法事実等が必要なはずである。しかるに,2018年の難民認定申請者10,493人のうち,過去に難民認定申請を行ったことがある者は749人と7.1%に過ぎないうえ,そのうち非正規在留者は231人と申請者全体の2.2%であるから ,そもそも入管行政が複数回の難民認定申請による悪影響を被っているという立法事実が存在するのか甚だ疑問である。また,2回目以降の難民認定申請において,行政手続若しくは司法手続の結果,難民認定を得た実例は相当数存在する。それにもかかわらず送還停止効に一定の例外を設けることは,本来は「難民」と認定されるべき者を迫害地に送還することでその者の生命を危険に晒す結果となる。 そもそも,あまりにも低い難民認定率が国際水準から乖離している日本国の難民認定制度は,国際社会から「難民鎖国」と批判され続けてきた。公開されている最新の統計では,2018年度中に難民認定申請を処理された者13,502人のうち,難民と認定された者は38人と,わずか0.28%に過ぎない 。 日本国の難民認定制度の最重要な課題は,国際水準に合致した適正な難民審査制度を構築することである。その問題を棚上げにしたまま送還停止効に一定の例外を設けることは,日本国が難民保護の政策を完全に放棄することに他ならないし,「専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占めたい」とする憲法の理念に明らかに反する。 以上のとおりであるから,当会は送還停止効の例外措置を導入することに反対する。 3 収容期間の上限を設けないことについて
本提言は,退去強制令書による収容は「送還可能のときまで」(入管法第52条第5項)と規定され,収容期間に上限を設ける仕組みが存在しない点について,一定期間を超えて収容を継続する場合にはその要否を吟味する仕組みを提言する一方,収容期間及び合算した収容期間の上限を定めることを提言しなかった。 この規定によって2年,3年にもわたり長期間収容されている被収容者は,近年急増している。専門部会へ提出された資料によると,同年6月末時点における収容期間6月以上の被収容者数は合計679名であり,2014年(平成26年),2015年(平成27年)の各12月末日時点におけるそれ(各合計290名)と比べてわずか5年の間に倍増を越している 。報道によると,7年もの間収容され続けている被収容者すら存在する 。 このような収容期間の無期限長期化を背景に,各地の収容施設では抗議のハンガーストライキが立て続けに起きている。2019年(令和元年)6月24日には,長崎県の大村入国管理センターにおいて3年半収容されたナイジェリア国籍の被収容者1名がハンガーストライキを行い餓死するという痛ましい事件が起きた。被収容者にとって,先の見えない無期限の長期収容がその心理や身体に重大な影響を及ぼすことは想像に難くない。実際,各地の収容施設の被収容者の61%が何らかの薬を処方されており,東日本入国管理センターでは96%に及ぶ 。 無期限の長期収容は,収容の目的である送還の確保のための必要最小限度の身体拘束とはいえず,身体拘束は必要最小限度にとどめるべきという比例原則に違反し,世界人権宣言第9条,国際規約第9条1項に違反している。このため,国際社会からも厳しく批判にさらされ,2020年9月23日に国連の恣意的拘禁作業部会において示された見解においても,収容期間の上限は法律で定められなければならず,その上限に達した場合は自動的に被収容者は解放されなければならないと明言されている。本提言もこのような無期限の長期収容という実態が恣意的拘禁であるとして国際的非難の的となっていたことは認めているのであるから,日本国は,現状を放置せず,速やかに収容期間及び合算した収容期間の上限を定めなければならない。 4 仮放免された者の逃亡等の行為に対する罰則の創設について
本提言は,仮放免された者が逃亡したり,出頭しない行為に対する罰則の創設を提言している(以下「仮放免逃亡罪」という。)。仮放免逃亡罪も,退去強制忌避罪と同様,刑罰による威嚇によってこれらの行為を防止することを意図している。 仮放免された者の逃亡が増加したのは2015年(平成27年)末以降であるが ,これは同年秋以降仮放免に就労禁止条件が全面的に付与され,これに違反した場合は条件違反を理由に収容される運用が開始された時期と重なっている 。これらの事実から,この就労禁止条件によって生計の手段を失ったことが主な原因であると推測されるが,専門部会で逃亡原因が十分に検討された形跡はない。 それにもかかわらず,安易に刑罰を導入することによって解決を図ろうとすることは,刑法の謙抑性の観点から問題があるし,逃亡及び不出頭の原因が不明なままでは新たな刑罰導入の効果は疑わしい。 仮放免逃亡罪も,退去強制忌避罪と同様,仮放免された者を支える者をも共犯者の立場に追いやる危険性があり,重要な人道上の活動が著しく萎縮する結果を招くことも強く懸念される。 以上のとおりであるから,当会は仮放免逃亡罪を導入することに反対する。 以 上
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検察庁法会長声明 ( 2020-10-16 ・ 140KB ) |
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検察庁法の一部改正廃案法案と同趣旨の法案を再提出することに強く反対するとともに違法な閣議決定の撤回を強く求める会長声明
1 検察庁法の一部改正法案(以下,「廃案法案」という。)が,第201回通常国会に提出され,国民世論からの強い批判,反対を受け,廃案となった。
廃案法案については,国民世論はもとより,日本弁護士連合会,全国52のすべての単位弁護士会による反対の意見表明がなされ,また,検察OBからも反対意見が寄せられたところであり,廃案法案の重大な問題性に鑑みれば,廃案は当然のことである。 2 しかしながら,報道によれば,新政府は,廃案法案について,再提出に向けて検討したいとして,2021年1月招集の通常国会に再提出する予定で調整を進めているとのことである。
現時点では,いかなる法案が再提出されるかの詳細は不明であるものの,当会の2020年4月13日付及び同年5月20日付各会長声明において指摘したとおり,廃案法案のうち,内閣ないし法務大臣の裁量により役職延長や勤務延長がなされることを可能とする「特例措置」については,以下のとおり,準司法官たる検察官の独立性,公正性を根底から揺るがし,国民の信頼を損ない,憲法の基本原理である権力分立を損なう危険を招来するものである。 また,政治権力を憲法で拘束する立憲主義を骨抜きにする違憲の疑いすらある法案である。 3 検察官は,公益の代表者として,強大な捜査権限及び公訴提起権を独占し,起訴,不起訴の裁量権を有している。また,検察官には,心身の故障その他の事由がある場合に,検察官適格審査会の議決を経るなどの手続を経ない限りは罷免されないという身分保障がなされている。
これは,検察官が,準司法官として,政治権力による犯罪を含むいかなる犯罪についても,厳正中立の立場から,捜査権,公訴権を行使することを可能とするためであり,憲法の基本原理である権力分立に基づくものである。 廃案法案のような,幹部検察官の人事について,政治権力による恣意的な介入が許されうる制度を設けることは,上記のような検察官の権限行使を歪め,「いかなる者も法に服する」という法治国家の基本的な原理を根底から突き崩す危険を招くものであり,許されない。 4 また,廃案法案及びこれの延長線上にある再提出予定法案の問題性とは別に,2020年1月31日付の東京高等検察庁検事長の定年を延長する閣議決定は,当会の同年4月14日付会長声明において指摘したとおり,検察官に定年延長は一切ないとする公権的解釈に反し,解釈の範囲を逸脱した違法,無効なものであることに変わりはない。
5 当会は,廃案法案と同趣旨の法案の再提出に強く反対するとともに,検察官定年延長の閣議決定の撤回を求める。
また,当会は,引き続き国民,学識者,マス・メディア等に対し,この問題の重大性,刑事司法の公正に与える危険性に対する問題提起を継続し,ともに議論していく所存である。 2020年(令和2年)10月14日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文
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日本学術会議会長声明 ( 2020-10-12 ・ 184KB ) |
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内閣総理大臣の日本学術会議会員についての任命拒否に対し,強く抗議する会長声明
1 報道によれば,菅義偉内閣総理大臣は,令和2年10月1日から任期が開始される日本学術会議の会員について,同会議が推薦した候補のうち6名(松宮孝明立命館大学教授(刑事法学),岡田政則早稲田大学教授(行政法学),小沢隆一東京慈恵会医科大学教授(憲法学),宇野重規東京大学教授(政治学),加藤陽子東京大学教授(歴史学),芦名定道京都大学教授(キリスト教学))を,会員に任命しなかった。
2 日本学術会議は,「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って,科学者の総意の下に,わが国の平和的復興,人類社会の福祉に貢献し,世界の学界と提携して学術の進歩に寄与すること」を使命とする科学者の「内外に対する代表機関」として,設立されたものであり,政府から独立した立場で政策提言等を行う科学者の代表機関として位置づけられている(日本学術会議法前文,2条,3条)。
日本学術会議は210名の会員をもって構成され,会員については,優れた研究または業績がある科学者のうちから日本学術会議の選考した候補者を内閣総理大臣に推薦するものとされ,内閣総理大臣はその推薦に「基づいて」会員を任命することとされている(法17条,7条2項)。 3 日本学術会議の会員の選任手続は,当初科学者による公選制であったところ,昭和58年の法改正により,現在の推薦に基づく内閣総理大臣の任命という形式に改められたという経過がある(平成16年の法改正までは,学術研究団体からの日本学術会議を経由する推薦制,それ以降は日本学術会議からの推薦制)。
そして,同改正においては,内閣総理大臣の任命制とすることにつき,日本学術会議からは,同会議の自主性と独立性をおかすものとして反対の意見が表明され(昭和58年5月19日付「日本学術会議法の一部を改正する法律案について(声明)」),国会審議においても,内閣総理大臣による任命制は,会員の任命を通じ,日本学術会議を政府の御用機関化する危険性があるとの懸念が示されていた。 このような批判ないし懸念に対し,当時の政府は,国会の委員会答弁において,「実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません。」(昭和58年5月12日参議院文教委員会 手塚康夫政府委員),「210人の会員が研連から推薦されてまいりまして,それをそのとおり内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈をしておるところでございます。この点につきましては,内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきまして十分その点は詰めたところでございます。」(同日参議院文教委員会 高岡完治説明員),「その推薦制もちゃんと歯どめをつけて,ただ形だけの推薦制であって,学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない,そのとおりの形だけの任命をしていく,こういうことでございますから,・・・政府が干渉したり中傷したり,そういうものではない」(昭和58年11月24日参議院文教委員会 丹羽兵助国務大臣・総理府総務長官)旨答弁し,学術会議側による推薦を尊重することを国民に対し,確約していたものである。 そして,参議院文教委員会においては,「なお,内閣総理大臣が会員の任命をする際には,日本学術会議側の推薦に基づくという法の趣旨を踏まえて行うこと」との附帯決議を附している。 4 このような立法経過を経て導入された内閣総理大臣による任命制については,今回の任命拒否が発生するまで,日本学術会議側が正式に推薦した会員候補を内閣総理大臣が拒否した事例は一度もなかった。
これまでのところ,いかなる理由で長年にわたる法運用を覆し,日本学術会議の推薦した会員候補を任命しなかったのかについて,菅義偉内閣総理大臣ないし政府は,具体的な説明を行っていない。 5 報道によれば,今回任命拒否された候補者は,そのすべてが,法学を中心とした社会科学系の学識者ないしは人文科学系の学識者であり,平成25年に成立した特定秘密保護法案,平成26年にそれまでの政府の憲法解釈を変更し,集団的自衛権の行使を可能とした閣議決定ないしその後の平成27年に成立したいわゆる新安保法制,平成27年の沖縄県名護市辺野古沿岸部の埋め立てを巡る行政不服審査法に基づく審査請求問題,平成29年のいわゆる共謀罪の創設を含む改正組織的犯罪処罰法案等に対し,学識者として批判的な意見を表明するなど,何らかの形で政府に対する批判的な意見を表明した者である。
6 仮に,今回の任命拒否の実質的な理由が,上記のような政府に対する批判的な意見表明を行った者を日本学術会議から排除することにあるとすれば,当該候補者及び日本学術会議に対する重大な政治的圧迫ないし恫喝であり,憲法23条の保障する学問の自由を侵害するものといわざるを得ない。
また,このような政府による圧迫,恫喝を目の当たりにした我が国の学識者は,学問的見解または学問的良心に基づく自由な意見表明を差し控えることとなり,政府に対する批判的な意見の表明が萎縮することが容易に予想される。これは,我が国の民主主義に対する重大な危険性をもたらすものであることはいうまでもない。 7 我が国は,かつて,いわゆる天皇機関説事件,滝川事件等の政府の意向に沿わない学問的見解を有する学識者が政府により弾圧され,自由な学問研究が阻害された苦い歴史的経験を有している。
日本国憲法が,学問の自由を保障したのは,このような歴史的経験に鑑み,政府批判を含む自由な学問及びこれによる意見表明を保障することこそが憲法の基本理念たる基本的人権の尊重,国民主権を貫徹するために必須であるとしたからにほかならない。 日本学術会議には,我が国の学術研究者の代表機関として,強い自主性と独立性が担保されなければならず,その会員の任命においては,現行法を前提とするならば,内閣総理大臣は,日本学術会議の推薦した候補者については,学術会議の会員として不適当であることを示す客観的で一見明白な理由が存在しない限り,これを尊重しそのまま任命しなければならない。 8 当会は,内閣総理大臣に対し,各候補者についての任命拒否を行った具体的な理由を国民に説明することを求めるとともに,今回の任命拒否に対し,強く抗議する。
2020年(令和2年)10月10日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文 |
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民事裁判手続のIT化に関する会長声明 ( 2020-10-12 ・ 356KB ) |
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民事裁判手続のIT化に関する会長声明
第1 意見の趣旨
当会は、法制審議会において、民事裁判手続のIT化についての民事訴訟法の見直しが検討されている状況を踏まえ、裁判を受ける権利の実質的保障、地域における裁判所の充実の必要性の観点等から、関係各所に対し、以下のとおり要請する。 1 オンライン申立てについては、義務化を前提とすべきではなく、裁判制度を利用する当事者が選択できる制度とすべきであること 2 IT機器を有していない者や高齢者・障がい者をはじめとしたITに習熟していない者の司法アクセスを拡充するために、地方裁判所(支部を含む)及び簡易裁判所を本人サポートの拠点として充実させること 3 特別な訴訟手続の特則を設ける必要があるか否かの検討については、民事裁判手続のIT化とは切り離した上で、その必要性及び具体的な制度設計を検討すべきであること 4 民事裁判手続のIT化のために十分な予算措置を講じることに加え、IT化以外の司法基盤の拡充のためにも十分な予算措置を講じること 第2 意見の理由
1 令和2年2月21日開催の法制審議会において、法務大臣から民事裁判手続のIT化についての諮問がなされ、現在、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会において、訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化、情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しが行われている。 2 当会としても、裁判手続を利用する当事者の選択肢として、民事裁判手続のIT化が図られること自体は望ましいことであると考えており、時代に即した民事訴訟制度の見直しが行われることにより、司法制度改革が目指した「国民にとって、より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とするため、国民の司法へのアクセスを拡充するとともに、より公正で、適正かつ迅速な審理を行い、実効的な解決を可能とする制度の構築」がなされることに期待するものである。 3 他方において、民事裁判手続のIT化には、裁判の公開や直接主義などの民事裁判の諸原則との整合性、セキュリティー対策、デジタル証拠の改ざん対策、非弁対策等の数々の問題点が指摘されているが、中でも裁判を受ける権利に対する配慮は重要であり 、民事裁判手続のIT化が図られた結果、IT機器を有していない者や高齢者・障がい者をはじめとしたITに習熟していない者の裁判を受ける権利を侵害するような事態が生じることは絶対に避けなければならない。 令和2年9月16日に菅内閣が発足し、デジタル庁の設置に向けた動きが加速している。しかし、デジタル技術の推進は、国民の利便性を高めることが目的であって、デジタル化自体が目的ではない。当会としては、民事裁判手続のIT化が国民の裁判を受ける権利や裁判の公正さに資するかどうかの立法事実の真摯な検討を怠ったままIT化が更に促進されることを危惧する。 4 オンライン申立てについては、義務化を前提とすべきではないこと (1) 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会では、オンライン申立ての義務化等について、「オンライン申立てを原則義務化することについて、その段階的な実現を含め、どのように考えるか」が検討事項として挙げられているが、オンライン申立ての義務化は、その立法事実が十分に検討されていないことに加え、国民の裁判を受ける権利を侵害する可能性が高いことから相当ではない。 (2) 司法のユーザーである市民の中には、能力的、経済的、環境的事情等から必ずしもITを駆使した手続に対応できない者も相当見込まれる。例えば、プロバイダ料金やパソコン購入代金を支払うことができない貧困家庭、生活保護受給者、あるいはパソコ ンやインターネット等の情報技術を利用することができなかったり、使いこなせない市民の場合には、オンライン申立てを義務化することによって、かえって民事裁判手続を利用することができなくなるような事態を生じさせることになる。すなわち、オンライン 申立ての義務化は、デジタル・ディバイド(格差)による市民の新たな裁判所へのアクセス障害を生じさせ、裁判を受ける権利を侵害することになる。 (3) この点、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会においては、オンライン申立ての義務化に向けた方策として、(1)裁判所による適切な事件管理システムの構築等、(2)適切な担い手による充実したサポート体制の構築等をあげる。しかしながら、具体的 なシステムの内容や具体的なサポート体制の内容が明らかではない中で、オンライン申立ての義務化を決定することは性急であり、オンライン申立ての義務化によって、IT機器を保有しない者、ITに習熟していない者の裁判を受ける権利が侵害されないという 制度的な保障は全くない。 (4) また、訴訟代理人の中にも、高齢等の理由によりオンライン申立てに対応することが困難な者が存在すること、特に弁護士過疎地域においては、オンライン申立てに対応できない弁護士がいると当該地域の住民の司法アクセスの制限に直結してしまうことからして、訴訟代理人に対してもオンライン申立ての義務化を行うことは相当ではない。 (5) 以上より、オンライン申立てについては、義務化を前提とすべきではなく、裁判制度を利用する当事者が選択できる制度とすべきである。 5 地方裁判所(支部を含む)及び簡易裁判所を本人サポートの拠点として充実させること (1) オンライン申立ての義務化の有無にかかわらず、民事裁判手続にオンライン申立てを制度として導入する以上、民事裁判手続を利用しようとする者に対する充実したサポート体制を構築することが必要である。 (2) 我が国においては、本人訴訟の割合が高い(司法統計によれば、平成30年度の簡易裁判所における訴訟は76.30%が双方当事者本人訴訟、地方裁判所においても13.23%が双方当事者本人訴訟、地方裁判所における当事者の一方又は双方ともに代理人を選任していない訴訟は54.54%)ことからしても、利用者に対するIT面における充実したサポートの必要性が高いことは明らかである。 (3) そこで、裁判手続のIT化の導入と併せて、地方裁判所(支部を含む)及び地域に身近な裁判所である簡易裁判所内に、誰もが利用することができるパソコンやスキャナー機能を有する複合機等の機器を設置する等の裁判所におけるIT環境の整備を図ることに加え、裁判所の職員を増員する等し、本人訴訟を予定している当事者が、裁判所職員からITによる裁判手続の利用方法について説明を受けることができる態勢を整えることが必要である。 6 特別な訴訟手続の特則について (1) 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会では、特別な訴訟手続が検討事項として挙げられている。これは、審理期間の定めなどがある特別な訴訟手続の導入を検討するものである。 (2) しかしながら、特別な訴訟手続の新設については、裁判手続のIT化の中で検討されるべきではない。そもそも、そのような制度を新設する立法事実が存在するのか、短期間において裁判官が結論を出すという職権的手続である側面も有していることから、非訟的な手続で権利義務の裁判をすることになり国民の裁判を受ける権利を侵害することにならないか、当事者の主張や証拠を制限し十分な証拠調べが行われないこと等によって裁判制度の適正手続を欠くことにならないかなどの疑問も存在するところである。 (3) したがって、特別な訴訟手続の特則を設ける必要があるか否かとの点は、民事裁判手続のIT化の検討とは切り離した上で、その必要性及び具体的な制度設計について、慎重な検討がなされるべきである。 7 十分な予算措置の実施について (1) 民事裁判のIT化にあたっては、十分なセキュリティー対策を施した上で、適正な制度及びシステムを構築するために十分な予算措置を講じることが不可欠である。 (2) 日本の裁判所関連予算は、国家予算(一般会計予算)のわずか約0.3%にすぎず、地域の司法を充実させるために、大幅な予算の増加が求められている。この点、民事裁判手続のIT化により、裁判手続の効率化が過度に強調されることになれば、裁判手続のIT化以外の予算が現在よりも削減されかねない。現在でも不足している裁判所関連予算が、裁判手続のIT化が図られることにより、削減されるようなことがあってはならない。 (3) また、民事裁判手続のIT化を進めることと併せて、裁判所支部の統廃合、裁判所職員の減員等が行われることがあば、現在においても不十分である裁判所の人的物的基盤がさらに後退し、裁判所に対する市民のアクセス障害を助長することになりかねない。民事裁判手続がIT化されたとしても、口頭弁論及び証拠調べを公開された法廷で直接行う必要性等、当事者及び訴訟代理人が裁判所に直接出頭する必要性は変わらないのであり、裁判所の人的物的基盤を強化する必要性に変わりはない。さらに、ITの操作に不慣れな利用者に対する手続説明等を十分に行うためにも、裁判所職員を減員するようなことはあってはならない。 2020年(令和2年)10月10日
長野県弁護士会
会 長 中 嶌 知 文 |
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司法試験における厳正な合格判定を求める ( 2020-09-17 ・ 95KB ) |
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令和2年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
1 8月12日から16日にかけて,令和2年司法試験が実施された。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,試験日程が延期されるなどの困難な状況に耐えて司法試験に臨んだ受験生の皆様 に,心から敬意を表する。
2 令和2年の司法試験出願者数は4,226名であり,前年比で704名減,前々年比で1,585 名減となった。司法試験受験者数は,8月12日付けの報道によれば3,703人(速報値)となった。
法科大学院についてみれば,令和2年度志願者数(延べ人数)は8,161名,同年度入学者数は1,711名となり,前年度(志願者数9,117名,入学者数1,862名)を更に下回っている。
ピーク時には,法科大学院志願者数が72,800名(平成16年度。延べ人数),法科大学院入学者数が5,784名(平成18年度),司法試験出願者数が11,892名(平成23年),司法試験受験者数が8,765名(平成23年)であったことを考えると,法曹志願者の激減は明らかであり,回復の目途が立たない状況にある。
3 司法は国民の権利義務と社会正義に深く関わるものであり,司法を担う法曹の質の維持・向上は国民にとって重大な要請である。
現状のように法曹志願者の母数が激減すれば,その中の有為な人材の絶対数が減少することは道理であり,法曹の質の確保は困難となる。
法曹養成制度改革推進会議も,平成27年6月,当面,司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが,その際,「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との留保を付した。この留保の意義については,国会の衆議院法務委員会において,政府参考人である大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長が,「これは,やはり国民の権利保護の見地から法曹の質の維持を優先することとするというふうな趣旨を込めたものでありますので,この下の三行(注-前記留保部分)に沿って運用がなされることを期待したい」と答弁している(平成27年5月22日第189回国会衆議院法務委員会会議録)。政府も,司法試験の合格判定においては,1500人以上といった合格者数の確保よりも法曹の質の維持こそを優先すべきであり,それは市民の権利保護の見地に基づく要請であること,前記留保部分はこの点に立脚した重要な運用指針であることを公式に表明していたのである。
4 法曹志願者が激減する現状下で,1500人という合格者数を確保するために合格ラインを下げるのであれば,司法試験に本来要請される選抜機能は損なわれ,合格者の質は制度的に担保できず,「輩出される法曹の質の確保を考慮す」べきであるとの前記留保部分の方針に違背することとなる。
ところが,近年の司法試験では,過去の受験者数,合格率,全受験者の総合点の中央値及び合格最低点等のデータとの比較結果や,法曹志願者の激減状況等から推論する限り,合格判定において,上記取りまとめの「1500人程度以上」を墨守するため,合格ラインを意図的に引き下げていると言わざるを得ず,政府は,自らの運用指針に違背し,法曹の質の確保という国民に対する重大な責務を故意に怠っているのである(当会の平成29年10月20日付「平成29年司法試験合格発表についての会長声明」,平成30年10月13日付「平成30年司法試験合格発表についての会長声明」,令和元年10月15日付「令和元年司法試験合格発表についての会長声明」)。
このような誤りは,直ちに是正しなければならない。司法試験の合格判定は,目標とされた数ありきでなされてはならず,従前にも増して,司法を担う法曹の質の維持・向上という本質的要請をふまえ,厳正に行われなければならない。
5 以上から,当会は,令和2年司法試験の合格判定にあたっては,1500人程度以上とされる合格者数の確保に拘泥せず,司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定が行われることを強く求めるものである。
2020年(令和2年)9月15日
長野県弁護士会
会 長 中 嶌 知 文
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令和2年7月豪雨に関する会長談話 ( 2020-07-16 ・ 133KB ) |
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令和2年7月豪雨に関する会長談話
去る7月3日以降に九州地方や中部地方をはじめとして全国各地で発生した集中豪雨により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被災された皆様方と、そのご家族の方々に心よりお見舞いを申し上げます。
長野県内においても、土砂崩れによる死亡事故をはじめとして、中南信地方を中心に浸水被害や土砂災害が相次いで発生しており、予断を許さない状況が続いています。今回の豪雨では、各地で記録的な降水量が観測され、河川の氾濫による大規模な浸水、土砂災害などによる死傷者は多数にのぼり、住家や農地をはじめとした物的被害も甚大であり、大勢の方々が避難生活を余儀なくされている状況にあります。各地の被災状況の映像は、昨年の東日本台風により長野県内で発生した千曲川の氾濫と見紛うばかりであり、被災地の皆様のご心痛、ご労苦を察せずにはいられません。
長野県弁護士会は、急ぎ無料法律相談体制を整え、既にその運用も開始しているところです。
当会は、昨年の東日本台風災害の折には、全国の単位弁護士会、関東弁護士会連合会、日本弁護士連合会の支援も受けつつ、長野県、被災市町村、日本司法支援センター、他士業団体、ボランティア団体等と積極的に連携協力しながら、被災者支援活動を展開してきました。その活動は今も続けているところですが、今回の豪雨災害に対しても、当会は、過去の被災者支援活動で培ってきた経験を活かし、被災地への法的支援と被災された皆様方の権利回復のために、一丸となって、支援をしていく所存です。
被災者の皆様の生活再建をはじめとする被災地の復旧が、一日も早く叶いますよう、心よりお祈り申し上げます。
2020年(令和2年)7月16日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文 |
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地方法務局支局における公証事務の取扱い ( 2020-07-14 ・ 131KB ) |
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公証人がいない地域の地方法務局支局における公証事務取扱い廃止に反対し、公証事務の取扱いの拡大と周知を求める会長声明
1 公証制度は、私的な法律紛争を未然に防ぎ、私的法律関係の明確化、安定化を図ることを目的とした制度である。公証事務は、公正証書遺言を含む公正証書の作成のほか、株式会社の定款・私署証書に対する認証の付与、確定日付の付与など多岐にわたるものであり、地域の市民が等しく利用することができなければならない。
2 公証事務は原則として公証人が担うことになっているが、法務大臣は、公証人法第8条の規定により、地方法務局支局等の管轄区域内に公証人がいない場合等に当該地方法務局支局等に勤務する法務事務官に公証人の職務を行わせることができるとされている。同制度は、公証事務の重要性に鑑み、公証人がいない地域の市民も公証事務を容易に利用することができるようにするために設けられたものである。
3 ところが、法務大臣は、令和2年7月1日から、福井地方法務局小浜支局、秋田地方法務局本荘支局、秋田地方法務局大曲支局及び旭川地方法務局留萌支局の4支局における公証事務の取扱いを廃止した。公証人がいない地域における地方法務局支局の公証事務の取扱いの廃止は、当該地域の市民の公証事務へのアクセスを阻害するものである。
4 長野県内においては、長野地方法務局飯山支局及び同大町支局において、上記公証事務が取り扱われている。しかし、同木曽支局においては、保護命令の申立てに必要な宣誓認証以外の公証事務は取り扱われていない。それ故、同管轄区域内の市民が保護命令の申立てに必要な宣誓認証以外の公証事務を利用する場合には、遠方の公証役場までの移動を余儀なくされている。同木曽支局においても、保護命令の申立てに必要な宣誓認証の取扱いに加えて他の公証事務についても、当該地域の市民の公証事務へのアクセス保障の観点からは、同様に取扱いを行う必要がある。
5 また、地方法務局支局において公証事務を取り扱っていることについては、公証事務の取扱いがある地方法務局支局のホームページにも取扱い業務として掲載されていない状況であり、十分な周知がなされていない。十分な周知がなされていないことが、地方法務局支局における公証事務の利用を阻害していると考えられる。
6 よって、当会は、法務大臣に対し、上記地方法務局4支局における公証事務取扱い廃止に反対するともに、長野地方法務局木曽支局を含む公証人がいない地域における地方法務局支局についても公証事務の取扱いを拡大することを求める。加えて、公証事務の取扱いのある法務局支局については、市民に対し、取扱い事務に公証事務が含まれること及び取扱いのある公証事務の内容を積極的に周知することを求める。
2020年(令和2年)7月14日
長野県弁護士会 会長 中 嶌 知 文 |
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最低賃金会長声明 ( 2020-07-13 ・ 177KB ) |
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安心して暮らせるだけの最低賃金の実現を求める会長声明
非正規労働者が労働者全体の3分の1を超え、年間給与額200万円以下で働く民間企業の労働者は、1000万人を超えている。格差と貧困が拡大している我が国の状況においては、最低賃金制度のセーフティーネットとしての機能を真に実効的なものとし、労働者が最低賃金でフルタイム働けば、それだけで安心して暮らせる賃金水準にすることが必要である。
昨年2019年、中央最低賃金審議会は、全国加重平均27円の引上げ(全国加重平均額901円)を答申し、長野地方最低賃金審議会でも27円の引き上げを答申して、長野県の最低賃金は、時給848円となった。
しかしながら、仮に週40時間、年52週、働いたとしても、年収で約176万円、月額約14万7000円にしかならない。これでは、到底、安心して暮らせるだけの賃金水準には達していない。
また、地域間格差は依然として解消されず、最も高い東京の時給1013円に対し、最も低い15県は時給790円であり、223円もの開きがある。長野県とは165円の開きである。賃金格差は、若者の都市部への流出、地方の人口減少、東京一極集中の弊害の要因となっている。賃金の地域間格差をなくすためには、全国一律の最低賃金制度を設けるべきである。
今般、政府の緊急事態宣言により、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念も広がる中、最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論もある。
しかし、労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。多くの非正規雇用労働者をはじめとする最低賃金付近の低賃金労働を強いられている労働者にとっては、今こそ最低賃金制度のセーフティーネット機能が発揮されるべきである。
一方、最低賃金の引上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しては、新型コロナウイルス感染拡大に備えた支援策が拡充されているところであるが、国は、一層の中小企業支援策を講じるとともに、最低賃金引き上げに伴う中小企業の負担軽減策、及び、これまで以上に、元請け企業と中小下請け企業間において公正な取引が確保されるよう努めることも必要である。
以上より、安心して暮らせるだけの最低賃金の実現に向け、中央最低賃金審議会及び長野地方最低賃金審議会においては、最低賃金のさらなる引き上げを図るべきである。また、地域間格差をなくすために、国は、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
2020年(令和2年)7月13日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文 |
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検察官の定年延長問題会長声明(2) ( 2020-05-20 ・ 142KB ) |
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検察庁法の一部改正法案の廃案及び違法な閣議決定の撤回を強く求める会長声明
1 検察庁法の一部改正法案(以下,「本法案」という。)が,第201回通常国会に提出され,国民世論からの強い批判,反対を受け,2020年5月18日に,今国会での法案成立が見送られることとなった。
2 すでに,当会の2020年4月13日付会長声明において指摘したとおり,本法案のうち,内閣ないし法務大臣の裁量により役職延長や勤務延長がなされることを可能とする「特例措置」については,準司法官たる検察官の独立性,公正性を根底から揺るがし,国民の信頼を損ない,憲法の基本原理である権力分立を損なう危険を招来するものである。
また,政治権力を憲法で拘束する立憲主義を骨抜きにする違憲の疑いすらある。
3 同様の指摘,批判が,日本弁護士連合会をはじめ,9割以上の単位弁護士会の会長声明や衆議院内閣委員会等の審議における野党からなされていることに加え,世論においても多くの懸念,反対が示されている。
衆議院内閣委員会において法務大臣は,「特例措置」の要件である「職務の遂行上の特別の事情」,「公務の運営に著しい支障が生ずる」事由について,人事院規則の規定に準じて定めると答弁するなど,検察官の独立性に対する認識が欠けており,恣意的な人事権の行使を可能とする要件であることがますます明らかになっている。そもそも,検察については検察官同一体の原則からも,検事総長や検事長等の幹部検察官の定年という予測しうる交代があったからといって,捜査,公判に著しい支障を来すことは考えられないのであり,立法事実を欠くものである。
4 このような審議状況に鑑みても,前記のとおりの本法案の問題性は明白であって,今国会での採決を見送ったのは当然というべきである。
5 報道によれば,政府は,本法案の成立を諦めてはおらず,継続審議扱いとして,2020年秋の臨時国会ないしはそれ以降の国会において審議予定とのことであるが,そもそも本法案のうち,内閣ないし法務大臣の裁量により役職延長や勤務延長がなされることを可能とする「特例措置」条項部分は,削除すべきであって,このような重大な問題を含む法案は,継続審議ではなく,廃案とすべきである。
6 また,本法案の問題性とは別に,2020年1月31日付の東京高等検察庁検事長の定年を延長する閣議決定が検察官に定年延長は一切ないとする公権的解釈に反し,解釈の範囲を逸脱した違法,無効なものであることに変わりはない。
7 当会は,引き続き,本法案中の「特例措置」条項部分の廃案とともに検察官定年延長の閣議決定の撤回を求める。
2020年(令和2年)5月20日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文
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73回目の憲法記念日によせる会長談話 ( 2020-04-30 ・ 200KB ) |
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73回目の憲法記念日によせる会長談話
1 1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は,一度の改正も経ることなく,2020年(令和2年)5月3日,73回目の憲法記念日を迎えます。国民主権,基本的人権の尊重,恒久平和主義といった重要な基本原理は,国民の期待と信頼の下に基本的に堅持され,国家権力への歯止めとして機能してきました。しかし,今,日本国憲法を取り巻く環境は危機的状況にあります。だからこそ,私たちは,日本国憲法の理念や目指しているものについて,憲法が成立した原点に戻って考える必要があると考えます。
2 日本国憲法が最高価値とするものは,個人の尊厳であり,国民一人ひとりが個人として尊重されなければならないことを規定しています(憲法13条)。
しかし,個人の人格の尊重が求められる中で,全ての国民の基本的人権は真に保障されているのでしょうか。 たとえば,ハンセン病患者やその家族へのこれまでの対応は,憲法13条にかなうものだったでしょうか。長らく筆舌に尽くしがたい不当な差別を受け続け,明確な人権侵害があったことが,ようやく司法判断において認められるようになってきてはいますが,反省と人権の回復に向けた国の施策は十分なものと言えるでしょうか。 LGBTすなわち性的少数者に対しては,どうでしょうか。未だ本人の自認する性が尊重される社会とは程遠い状態ではないでしょうか。 また,憲法24条において,両性の本質的平等が定められているにもかかわらず,未だに夫婦別姓制が実現しないのは何故なのでしょうか。私たちは,賛成派,反対派の両論について真摯に向き合っているでしょうか。法律婚において同姓を強制されることが社会生活において大きな負担をかけることや人格権への侵害のおそれがあることへの理解は進んでいるとは思われません。 社会的弱者である子どもたちに対する虐待がなくならないのは何故でしょうか。その背後には私たちの社会が抱えている重大な欠陥があるのではないでしょうか。子どもたちの生命や人格・尊厳が危機にさらされているのに,国・地方自治体・児童相談所・学校等における対応は,後追い的であり未だ不十分と言わざるを得ません。 さらに,新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,令和2年4月7日,7都府県において緊急事態宣言が発出され,同月16日にはこれが全国に拡大される事態となっていますが,緊急事態宣言により,国民一人ひとりの人権が過度に制限されることはないのでしょうか。人権の制限の必要性が認められる事態であるからこそ,その限界が十分に論じられなければなりません。感染拡大という目的を超えたなし崩し的な人権侵害が発生・継続することのないように,その発令の可否,範囲,期間および手続き等について慎重に検討する必要があります。 3 日本国憲法の重大な基本原理である民主主義の理念(憲法前文,43条1項,96条等)に目を転じれば,国民の意見や考え方は,現に行われている政治には十分反映されているでしょうか。
杜撰な文書管理,疑惑に対する政府の表面的な答弁が繰り返される国会は,私たちが望んでいる姿でしょうか。国会が真に国権の最高機関(憲法41条)であるために私たちは何ができるのでしょうか。 基地問題の解決には,本当に沖縄の辺野古基地移設しか方法がないのでしょうか。沖縄にだけ基地の負担を負わせる事態は,憲法が保障する法の下の平等(憲法14条)や地方自治の本旨(憲法92条)に反するものと言わざるを得ません。 4 残念ながら,今も世界中で紛争が絶えず,このような国際情勢にどのように向き合うかが重大な課題となっています。
そのような状況の中,自衛隊を憲法に明記するなどの憲法9条改憲などが提案されています。 しかし,このような対応をとることが本当に正しい選択なのでしょうか。ひとたび戦争の惨禍に巻き込まれたらその被害は取り返しがつかないものとなるでしょう。武力の強化は決して最善の方法ではなくむしろ最悪の方法とも考えられるのですが,冷静かつ客観的な議論が今現在なされているのでしょうか。 閣議決定による集団的自衛権の行使容認やそれを前提とした安全保障関連法が,憲法違反であることを当会も表明してきました。このような事態が続くことは,国民を戦禍に巻き込む可能性を大きくするものであり,憲法のもつ崇高な理念であり基本原則である恒久平和主義を危機にさらすものです。 5 確かに,日本国憲法を取り巻く状況が,70余年を経て,大きく変わったことは紛れもない事実です。
しかし,日本国憲法が定めているのは人類普遍の原理であり,その価値は,たとえ社会情勢,国際情勢が大きく変わろうと,決して減少するものではありません。それどころか,この価値は一層重要性を増してきているとも言えるものです。 私たちが,この価値を忘れたとき,私たちは大きなしっぺ返しを受けるはずです。昨今の出来事を見るに,異質な意見を排除する風潮が社会に蔓延し始めているように思います。異質な意見の排除は,結局のところ,社会を委縮させ,新たな発展の芽を摘み,人類にとって著しい不利益をもたらすだけです。 愛知県で開催された「表現の不自由展」の顛末をみると,危機はすぐそこまで迫っていると言わざるを得ません。 長野県知事が県護国神社の支援組織の会長を務め,神社施設の修復のための寄付金集めの趣意書に名を連ねていたことも極めて問題と言わざるを得ません。 個人が自由闊達に言いたいことが言える社会こそが私たちの目指すべき社会と信じます。また信教の自由も,個人に内在する心情に関わることであり,為政者には慎重なうえにも慎重な対応が求められているのです。 先に触れた新型コロナウイルスの感染拡大に伴う問題に関連し,このことを,いわゆる緊急事態条項を新設する改憲が提案され助長される契機とすることは極めて危険であり,冷静な環境での慎重かつ十分な検討が求められています。 6 今,私たちは,改めて,「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は,人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって,これらの権利は過去幾多の試練に堪え,現在及び将来の国民に対し,侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」(憲法97条)という規定の重さを噛みしめなければならないと思います。
日本国憲法の理念や本質を深く知り,ともに考え,議論し,さらには社会におけるあらゆる人権侵害や不平等に対して,その被害を受けている人々の心情を十分くみ取り,同じ立場に立って,自分自身の問題として,解決する姿勢を持たなければならないと考えます。そして,人類の歩むべき,生きる権利や個人の尊重を中核とした基本的人権が十分に保障され,真の民主主義が確立され恒久平和が実現される社会を,着実に目指していく必要があります。 当会は,この目標を達成するために全力を尽くします。 2020年(令和2年)5月1日
長野県弁護士会 会 長 中 嶌 知 文 |
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検察官の定年延長問題会長声明 ( 2020-04-14 ・ 181KB ) |
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検察官の定年延長に関する閣議決定の撤回を求め,国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
1 政府は,本年1月31日,同年2月7日に定年を迎える予定であった東京高等検察庁検事長の定年(63年)を半年間延長するとの閣議決定を行った。
2 しかし,国家公務員法(以下,「国公法」という。)81条の2は,「職員は,法律に別段の定めのある場合を除き,定年に達したときは,定年に達した日以後における最初の3月31日又は所定の退職日に退職する(同条第1項)。前項の定年は,年齢60年とする(同条第2項)。」と定め,定年による退職の特例(同法81条の3)及び定年退職者の再任用(同法81条の4)の規定も同法81条の2第1項により退職すべきこととなる場合又は退職した者を前提としている。
一方で,検察官については,国公法81条の2の「法律に別段の定めのある場合」(同条第1項)として検察庁法22条に定年の規定が存在し,同法32条の2において,国公法附則13条の規定により,検察官の職務と責任の特殊性に基づき同法の特例を定めたものとされている。 したがって,国公法81条の3第1項は,検察官には適用されないことが明らかである。 3 裁判官及び検察官はいずれも国家公務員(前者は特別職,後者は一般職)であるが,憲法の基本原理である権力分立とその具体化として憲法76条が定める司法権の独立の理念に基づき,裁判官にも検察官にも厚い身分保障があり(裁判所法48条,検察庁法25条),この身分保障の一環としてそれぞれに定年の定めがある(裁判所法50条,検察庁法22条)。しかし,いずれについても定年による退職の特例及び定年退職者の再任用の定めはない。
前述のとおり,国公法に定年による退職の特例及び定年退職者の再任用の定めがあるのに,国公法の特別法に当る裁判所法及び検察庁法に定めがないのは,司法権の独立の理念から,最高裁判所長官を除く裁判官及び検察官の任命権を有する内閣が,その裁量によって定年退職の特例及び定年退職後の再任用を行うことを回避した結果と考えるのが立法事実に照らし相当であり,裁判官にも検察官にも定年延長は一切ないとするのがこれまでの公権的解釈であったものである。 4 よって,上記閣議決定は,検察官に定年延長はないとのこれまでの国公法,検察庁法の公権的解釈に反し,解釈の範囲を逸脱した違法,無効なものであり,ひいては憲法の基本原理である法の支配,権力の分立を損なうものである。
5 しかるに,政府は,更に本年3月13日,検察庁法の一部改正を含む国公法等の一部改正案を国会に提出した。
同改正案は,検察官の定年を63年から65年に引き上げ(施行日令和4年4月1日),「年齢が63年に達した者は,次長検事又は検事長に任命することができない。」としながら,内閣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案して,・・・公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるとき」は,「特例措置」として63年に達した以降も次長検事又は検事長について1年以内の期限を定め,その官及び職を占めたまま勤務をさせることができること及び当該事由が引続きあると認めるときは更に1年間期限を延長することができることや検事正についても同様の「特例措置」を取ることができること等を企図するものである。 6 しかし,同改正案が可決された場合,検察官の人事は内閣の意のままとなり,権力犯罪を厳しく追及し,公訴を提起し,裁判所に法の正当な適用を請求する使命を有する準司法官たる検察官の独立性,公正性が根底から揺るがされる。
そして,検察官に対する国民の信頼を失うとともに,憲法の基本原理である権力分立を損なう危険を招来することが必須である。 7 よって,当会は,検察官定年延長の閣議決定を撤回することを求めると共に,検察庁法の一部改正を含む国公法等の一部改正案のうち,検察官の定年ないし勤務延長を内容とする「特例措置」に係る部分に断固として反対するものである。
2020年(令和2年)4月13日
長野県弁護士会
会長 中 嶌 知 文 |
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共同声明 ( 2020-03-30 ・ 179KB ) |
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司法試験合格者数のさらなる減員を求める12弁護士会会長共同声明
1 日本弁護士連合会は、2016年3月の臨時総会決議において、現行の法曹養成制度の下で、法曹志望者が毎年大幅に減少を続けている実情を踏まえ、こうした状況が続くならば我が国の司法と民主主義を担う人的基盤を脅かす危険があるとし、2015年の司法試験合格者数が1850人であった状況の中で、「まず、司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」を、可及的速やかに実現すべき緊急の課題として、全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組むことを表明した。
2 新制度発足後、現実の法的需要を大幅に超える司法修習終了者が毎年供給されてきた。加えて、裁判所における民事訴訟事件の新受件数がピーク時に比べて大幅に減少するなど法曹に対する従来型の需要は供給との関係で増加するどころか減少を続け、新しい活動領域の拡充も、供給の増加を吸収する規模には至っていない。そのため、司法修習終了後の就業状況に多少の改善傾向がみられている現在においても、弁護士の過剰供給を原因とした法曹の職業としての魅力の低下は、今なお回復たとは言い難い状況にある。
それに伴い、2019年度の法科大学院実入学者数は、1862人と昨年度に比べ若干回復したものの、依然として低迷した状態にある。司法試験受験者は、2004年には4万3千人であったものが、一昨年は5238人となり、さらに昨年は4466人と実に10分の1近くにまで減少した。 3 政府の法曹養成制度検討会議は、2013年6月26日の取りまとめにおいて、「多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機に直面していることは否定できない」とし、これを受け、文科省は198回国会に法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律等の一部を改正する法律案を提出し、法科大学院制度に対する改革として、大学法学部3年と法科大学院2年の計5年で修了する法曹コースの創設、法科大学院在学中の司法試験受験を可能にする等の法改正が行われた。
しかし、上記の通り、志願者の減少の根本原因が法曹の職業としての魅力低下にある以上、この原因を解消しない限り、大幅な法曹志望者の回復を期待することは困難である。 法曹の職業としての魅力低下を解消し、有為な人材としての志願者増加を達成するには、現状の過剰な需給バランスを是正し、法曹志望者が、自信をもって法曹の道を目指すことができるような環境の整備を行うことこそが必要である。 4 こうした中、法務省は、2019年9月に、同年の司法試験合格者数を1502人と発表した。前年に引き続き、合格者数がわずかに(23名)減少したとはいえ、受験者数が5238人から4466人へと772人減少したにもかかわらず、合格率は、29.1%から33.6%へとかえって上昇している。合格率は、2011年以降以下の通りであり、近年急激に上昇している。
2011(H23)年 23.5%(合格者2063/受験者8765)
2012(H24)年 25.1%(合格者2102/受験者8387) 2013(H25)年 26.8%(合格者2049/受験者7653) 2014(H26)年 22.6%(合格者1810/受験者8015) 2015(H27)年 23.1%(合格者1850/受験者8016) 2016(H28)年 22.9%(合格者1583/受験者6899) 2017(H29)年 25.9%(合格者1543/受験者5967) 2018(H30)年 29.1%(合格者1525/受験者5238) 2019(R01)年 33.6%(合格者1502/受験者4466) このような合格率の顕著な上昇は、司法試験合格者を1500人以上とすることを至上命題とすることから生じる現象であって、法曹養成制度改革推進会議が2015年6月30日付け取りまとめにおいて、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」と指摘していることを蔑ろにし、司法試験合格者の質の確保よりも合格者数の確保を優先しているものとして強く危惧せざるを得ない。 5 法曹は司法を担う人的基盤であって、司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。今、供給過剰状態を解消し、法曹の職業としての魅力を回復し、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの機会を十分に確保するなどして法曹の質を保持することは、司法制度存立の基礎を維持するために必要不可欠な事柄である。
そこで、われわれは、共同で、政府に対し、さらに司法試験合格者数を減員する方針を、速やかに採用することを強く求めるものである。 2020年(令和2年)3月25日
札幌弁護士会 会長 樋 川 恒 一 秋田弁護士会 会長 西 野 大 輔 仙台弁護士会 会長 鎌 田 健 司 栃木県弁護士会 会長 山 田 実
埼玉弁護士会 会長 吉 澤 俊 一 千葉県弁護士会 会長 小 見 山 大 山梨県弁護士会 会長 吉 澤 宏 治 長野県弁護士会 会長 相 馬 弘 昭 富山県弁護士会 会長 菊 賢 一 兵庫県弁護士会 会長 堺 充 廣
山口県弁護士会 会長 野 村 雅 之
大分県弁護士会 会長 原 口 祥 彦 |
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過剰与信規制の緩和に反対する会長声明 ( 2019-11-11 ・ 130KB ) |
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クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明
1 現在,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会(以下「小委員会」という。)において,クレジットカード等の交付・付与時の過剰与信規制について,下記の規制緩和策が議論されている。
記
(1)利用限度額10万円以下のクレジットカード等の交付・付与時は,指定信用情報機関への信用情報の照会義務(割賦販売法第30条の2第3項)及び基礎特定信用情報の登録義務(同法第35条の3の56第2項及び第3項)を免除すること
(2)クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合には,支払可能見込額調査義務(同法30条の2第1項)を免除すること
(3)クレジットカード会社独自の「技術やデータを活用した与信審査方法」を使用する場合は,指定信用情報機関への信用情報の照会義務及び基礎特定信用情報の登録義務を免除すること
2 しかし,消費者にとって,クレジット契約は,利便性がある一方,支払能力を超えた利用がなされ,多重債務問題を引き起こす一因となったことから,過剰与信規制が導入された経緯がある。当会も,関係機関と連携し,多重債務問題に取り組んできたところであり,上記(1)ないし(3)の規制緩和策は,過剰与信規制導入の経緯に逆行するものとして,看過することはできない。
具体的な問題点を指摘すると,上記(1)については,少額であれば,多重債務のリスクが低いと一概には言えない。また,利用限度額10万円以下という制限も,10万円以下のクレジットカードを複数交付することで,容易に規制を回避することができる。
上記(2)及び(3)「技術やデータを活用した与信審査方法」についても,信用情報の照会を行わない以上,自己申告によることになり,すでに他社からの借入で多重債務状態にある者に対しても,クレジット与信することが可能となりかねない。
以 上
2019年(令和元年)11月9日
長野県弁護士会
会 長 相 馬 弘 昭
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表現行為を抑止したことに抗議する会長声明 ( 2019-10-24 ・ 127KB ) |
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警察が選挙における市民の表現行為を抑止したことに抗議する会長声明
1 選挙は,主権者である国民(日本国憲法第1条)が固有の権利である選挙権(日本国憲法第15条第1項,公職選挙法第9条)を行使するための重要な機会であり,選挙人である国民が「自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われ」(公職選挙法第1条)なければならない。選挙権を行使するに当たり国民が意思を表明することは,表現の自由(日本国憲法第21条第1項)を支える価値の1つである自己統治の価値,すなわち国民が言論活動によって政治的意思決定に関与するという民主政に資する社会的価値の発現であり,最大限に保障されなければならない。
最高裁判所1948年(昭和23年)6月29日判決が選挙の自由妨害罪(公職選挙法第225条第2号)の「演説妨害」について,「その目的意図の如何を問わず,事実上,演説することが不可能な状態に陥らしめることによって成立する」と判示しているのは,国民が選挙権を行使する過程において政治的な意見を表明する表現の自由を保障することの重要性を考慮したからであり,その表現行為を抑止する場合は特に慎重に行わなければならない。 2 現場を撮影した映像(「北海道テレビ」ニュース,「北海道放送」ニュース)等によると,2019年7月15日,安倍晋三内閣総理大臣(以下「安倍首相」という。)が北海道札幌市中央区のJR札幌駅前で参議院選挙の候補者の応援演説を行っていた際,複数の警察官は,安倍首相に対し「増税反対」と叫んだ女性を取り囲み,同女を押さえつけた上,同女を移動させた。その後,警察官は,安倍首相が札幌駅前から去った後も同女につきまとい,同女に対し,「声を上げないでくれよ」「今日はもう諦めてくれ」などと発言した。
また,安倍首相の演説位置から道路を隔てて約20メートル離れた位置にいた男性が「安倍辞めろ」等と発言したところ,複数の警察官は,その男性を取り囲んだうえ同人の服や体を掴み,数十メートル後方へ移動させた。 さらに,複数の警察官は,歩いている安倍首相に対し「年金100年安心プランどうなった?」と記載されたプラカードを掲げようとした女性を取り囲み,歩道の端に移動させた。他方,警察官は,安倍首相を支持するプラカードを掲げた人々を移動させることはなかった。 また,現場を撮影した映像(「朝日新聞デジタル」記事)等によると,同月18日,安倍首相が滋賀県大津市のJR大津京駅前で参議院選挙の候補者の応援演説を行っていたところ,複数の警察官は,安倍首相に対し政治的発言を行った男性を応援演説会場後方の高架下のフェンスに押しやり,その男性が「安倍辞めろ」等と声を上げて動こうとしたところを動けなくさせた。 3 北海道警察警備部は,上記2019年7月15日の警察官の対応について「トラブルを未然防止するためで対応は適正」と説明している。しかし,同警察は,当初「トラブル防止と,公職選挙法の選挙の自由妨害違反になるおそれがある事案について,警察官が声かけした」と説明していたが,公職選挙法違反について「事実確認中」と見解を変えた上,対応の法的根拠については「個別の法律ではなくトラブル防止のため,現場の警察官の判断で動いている」と説明した。
札幌市の事例と大津市の事例ではいずれの場合も,警察が排除した市民らの行為によって安倍首相の応援演説が中断されることは全くなく,その他選挙の自由が妨害された事実も認められなかったのであるから,市民らの行為が選挙の自由妨害罪に該当しないのは当然のこと,そのおそれもなかったことは明白である。前記の北海道警察の説明は,今回の対応が法的根拠のない違法なものであったことを示している。このような警察の対応は,市民による政治意見の表明を委縮させかねず,我が国の民主主義,自由主義にとっての重大な危険を招きかねないものであり,当会はこれを許容することはできない。 4 当会は,北海道警察と滋賀県警察の一連の対応に対して厳重に抗議するとともに,全国の警察等公権力に対し,政治的な意見に関する表現の自由を最大限尊重するよう強く要請する。
以 上
2019年(令和元年)10月18日
長 野 県 弁 護 士 会
会 長 相 馬 弘 昭 |
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台風19号被害に関する会長談話 ( 2019-10-15 ・ 144KB ) |
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台風19号被害に関する会長談話
本年10月12日夜から13日未明にかけて東日本を通過した台風19号は、大型で非常に強い勢力を保ちながら広範囲で強風と大雨をもたらし、各地で甚大な被害を及ぼしました。
10月15日午前5時現在の国土交通省の調査によれば、少なくとも長野県をはじめ7県の計37河川52ヶ所の堤防で決壊が確認され、土砂災害は19都県で146件発生しているとのことです。そして、10月15日午前7時の報道により判明している限りでも、11県で死者58名、6県で行方不明者15名、32都府県で負傷者211名に及んでいます。 まずもって、この災害によりお亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。そして、被災された皆様方、そのご家族の方々に心よりお見舞いを申し上げます。 長野県内においても、千曲川が広範囲で氾濫し、死者2名、行方不明者2名、負傷者11名、建物損壊・浸水被害は現時点では正確に把握できないほど多数発生しており、今もなお大勢の方々が避難生活を余儀なくされている状況にあります。 この状況において、献身的に救助作業にあたっている警察、自衛隊、消防、自治体職員、地元有志他全ての皆様に、心より敬意を表します。 当会も、10月14日に災害対策本部を立ち上げており、日本弁護士連合会、関東弁護士会連合会、各地の弁護士会及び日本司法支援センターなど関係諸機関と連携しつつ、被災された方々への法的支援に全力で取り組んでいく所存です。特に、当会では、東日本大震災及び長野県北部地震の教訓を生かし、当会主導のもと8団体で構成する「長野県災害支援活動士業連絡会」を発足させ、併せて、長野県との間で「災害時における相談業務に関する協定」を締結し、災害時に各種専門家が連携しワンストップ相談業務を実施する体制を構築してきました。今まさに、その真価が問われる時といえます。
被災者の皆様の生活再建をはじめとする被災地の復旧が一日も早く叶うよう、当会会員は一丸となって支援活動に尽力する所存です。 2019年(令和元年)10月15日
長野県弁護士会 会長 相 馬 弘 昭
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R1年司法試験合格発表についての会長声明 ( 2019-10-15 ・ 159KB ) |
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令和元年司法試験合格発表についての会長声明
1 9月10日、本年の司法試験合格者が発表され、総合点810点以上を得た1502人の受験者が合格者とされた。
2 司法試験は、法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有するかどうかを判定する国家試験である(司法試験法第1条第1項)。司法は国民の権利保護と社会正義に深く関わるものであるから、司法試験において「必要な学識と応用能力」を適切に判定し、法曹の質を確保することは、国民に対する国の重大な責務である。
法曹養成制度改革推進会議も、平成27年6月、当面、司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが、その際、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との留保を付した。 この留保の意義については、国会の衆議院法務委員会において、政府参考人である大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長が、「これは、やはり国民の権利保護の見地から法曹の質の維持を優先することとするというふうな趣旨を込めたものでありますので、この下の三行(注-前記留保部分)に沿って運用がなされることを期待したい」と答弁している(平成27年5月22日第189回国会衆議院法務委員会会議録)。政府においても、司法試験の合格判定においては、1500人以上といった合格者数の確保よりも法曹の質の維持こそを優先すべきであり、それは市民の権利保護の見地に基づく要請であって、前記留保部分はこの点に立脚した重要な運用指針であるとの見解を表明しているのである。 3 当会は、昨年と一昨年の司法試験の合格判定が、上記の1500人程度以上という数値目標に拘泥して合格ラインを意図的に引き下げ、法曹の質の確保という市民に対する国の責務を軽視した疑義があること(平成29年10月20日付「平成29年司法試験合格発表についての会長声明」、平成30年10月13日付「平成30年司法試験合格発表についての会長声明」)を踏まえ、本年の合格判定に先立ち、改めて、1500人程度以上とされる合格者数の確保に拘泥せず、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定を行うことを強く求める旨の会長声明を発したところである(令和元年7月10日付「平成31年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明」)。
4 しかし、本年の合格率も昨年比で約4.5%上昇しており、歴年の合格率をみると、「1500人程度以上」を謳った上記取りまとめの直後である平成28年以降、上昇を続けている。受験者数が急減している一方で、合格者数は1500人を割ることがなく、微減するのみだからである。
年 受験者数 合格者数 合格率(四捨五入) H26 8,015人 1,810人 22.58% H27 8,016人 1,850人 23.08% H28 6,899人 1,583人 22.95% H29 5,967人 1,543人 25.86% H30 5,238人 1,525人 29.11% R1 4,466人 1,502人 33.63%
また、合格点と、全受験者の総合点について各年の分布を代表する中心的傾向を表す中央値((全受験者÷2)位の受験者が得た総合点)を歴年比較すると、以下のとおりとなる。(短答式試験不合格者と論文式試験最低ライン点未満者は、中央値より低い総合点であったと擬制する。) 年 合格点 中央値 合格点-中央値 H26 770点 604点 166点 H27 835点 679点 156点 H28 880点 725点 155点 H29 800点 659点 141点 H30 805点 706点 99点 R1 810点 726点 84点 合格点と中央値の差異が近年格段に縮小しているということは、各年の受験者全体のレベルが維持されているとしても、合格ラインが近年急落している何よりの証左である。 5 そして、法曹志願者が激減している現状等に照らせば、受験者全体の得点能力が近年上昇した可能性はほとんど想定しえないことから、上記4の合格ラインの急落は、司法試験の合格レベルが、絶対評価として、昨年、本年と急落したことを意味するのである。
司法試験の合格レベルが低下を続ける原因は明らかである。 例年、司法試験の合格点は5点刻み(総合点について。以下同じ)で決定されているところ、本年の合格点は810点であり合格者数は1502人であること、815点以上を得た受験者は1451人であることからすれば、本年の合格点が810点と決定された理由は、合格点を810点まで引き下げて初めて「1500人」の合格者数が確保されるという点以外にない。 政府は,「1500人」の数値目標を墨守するため、意図的に、「法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力」を画すべき合格判定のラインを、引き下げたものと言わざるを得ない。 かかる合格判定は、司法を担う法曹の質の維持という観点を軽視し、市民の権利保護の要請に反するものであり,取りまとめの上記留保部分を司法試験の重要な運用指針であるとする政府答弁にも背馳するものである。前述したとおり、政府ですら、1500名の合格者を確保することが「法曹の質の維持」と緊張関係にあることを当然の前提としていたにも拘らず,いまやその観点は無視されているに等しい。 6 当会は、我が国における弁護士数の適正化の観点から、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める総会決議をなしたものであり(平成29年6月24日付「適正な弁護士数に関する決議」)、本年の合格判定はその見地からも重大な疑義があることを付言する。
7 よって、当会は、本年の司法試験合格判定に対し、強く抗議する。
令和元年10月15日
長野県弁護士会
会長 相 馬 弘 昭 |
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会長声明 ( 2019-09-14 ・ 124KB ) |
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長野県知事が長野県護国神社の崇敬者会会長を務めていたことに関する会長声明
阿部守一知事は、2011年4月から長野県護国神社の崇敬者会会長を務め、2017年10月の台風の強風で倒壊した神社鳥居などの修復事業の趣意書に宮司らとともに名を連ね寄付金を募った。
報道によれば、崇敬者会会長には一部を除く歴代長野県知事が就任し、阿部守一知事においても知事一期目に会長に就任したとされていることからすれば、崇敬者会会長に就任したのは長野県知事の立場にあるからにほかならず、県知事の職務内容やその社会的影響を考え合わせると、これを純粋な私人としての活動と評価することは困難である。確かに、長野県知事という肩書きが直接使われていた訳ではないが、阿部守一氏が長野県知事であることは周知の事実であり、その名前だけであっても、崇敬者会会長が長野県知事であると県民に判断される懸念を払拭することはできない。
日本国憲法は、平和主義とともに、基本的人権の中核をなす信教の自由を守り、多様な価値観を尊重する民主主義社会を堅持するための制度的保障として、政教分離原則を掲げている。政教分離原則は、他の宗教を排斥する中で戦前の軍国主義を国家神道が支えた反省に基づき、政治と宗教の厳格な分離を定めたものであって、宗教団体が国から特権を受け又は政治上の権力を行使することを禁止し(第20条1項後段)、国及びその機関がいかなる宗教的活動をすることも禁止している(同3項)。
護国神社は宗教法人であるところ、県政の最高責任者である知事がその立場において、護国神社の活動を支援する組織である崇敬者会会長を務めたり、護国神社のために寄付金を集めたりすることは、護国神社を援助、助長、促進する効果をもたらすものとして、政教分離原則に違反する疑いが極めて強いといわざるを得ない。
当会は、憲法を擁護すべき立場にある法律家団体として、政教分離原則に照らし、憲法違反の疑いのある行為について、従前の長野県知事等の対応も含め、重大な懸念を表明すると共に、阿部守一知事に対しては、速やかにその是正を求める。
以上
2019年(令和元年)9月14日
長野県弁護士会
会 長 相 馬 弘 昭
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会長声明 ( 2019-07-10 ・ 154KB ) |
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令和元年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
1 令和元年の司法試験出願者数は4,930名(前年度比881名減),司法試験受験者数は4,466名(同772名減)に落ち込んだ。法科大学院についてみれば,平成31年度志願者数(延べ人数)は9,117名,同年度入学者数は1,862名となり,前年度(志願者数8,058名,入学者数1,621名)や前々年度(志願者数8,160名,入学者数1,704名)に比べると下げ止まったが,ピーク時には遠く及ばない。
ピーク時には,法科大学院志願者数が72,800名(平成16年度。延べ人数),法科大学院入学者数が5,784名(平成18年度),司法試験出願者数が11,892名(平成23年),司法試験受験者数が8,765名(平成23年)であったことを考えると,法曹志願者の減少は激減というべき状況にある。 法曹志願者激減の原因については,法科大学院修了までに多額の学費や時間的コストを要する反面,司法試験合格者の多くが進路として選択する弁護士について,現実の法的需要を無視した弁護士数の過剰増員による職業的魅力の低下等が生じていることが背景に存在するものと考えられる。弁護士となるための資格を取得してもこれを職業とした将来設計を立てがたい現在の制度では,有為な人材が,法曹,ことに弁護士という職業を敬遠することは必然的な現象である。 2 司法は国民の権利義務と社会正義に深く関わるものであり,司法を担う法曹の質の維持・向上は国民にとって重大な課題・要請である。現状のように法曹志願者の母数が激減すれば,その中の有為な人材の絶対数が減少することは道理であり,法曹の質の確保にも懸念が生じる。
法曹養成制度改革推進会議も,平成27年6月,当面,司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが,その際,「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との留保を付した。この留保の意義については,国会の衆議院法務委員会において,政府参考人である大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長が,「これは,やはり国民の権利保護の見地から法曹の質の維持を優先することとするというふうな趣旨を込めたものでありますので,この下の三行(注-前記留保部分)に沿って運用がなされることを期待したい」と答弁している(平成27年5月22日第189回国会衆議院法務委員会会議録)。政府においても,司法試験の合格判定においては,1500人以上といった合格者数の確保よりも法曹の質の維持こそを優先すべきであり,それは市民の権利保護の見地に基づく要請であって,前記留保部分はこの点に立脚した重要な運用指針であるとの見解を表明しているのである。 とすれば,法曹志願者が激減する現状下で,単に1500人という合格者数を確保するために合格ラインを下げるのであれば,司法試験に本来要請される選抜機能は大きく損なわれ,合格者の質を制度的に担保できない事態も想定され,「輩出される法曹の質の確保を考慮す」べきであるとの前記留保部分の方針に違背することとなる。 現に,平成29年と平成30年の司法試験については,受験者数,合格率,全受験者の総合点の中央値及び合格最低点等のデータの過去3年間との比較結果や,法曹志願者の激減状況等から見て,合格判定において,上記取りまとめとしての「1500人程度以上」に拘泥し,合格ラインが意図的に引き下げられた可能性が高く,政府が,法曹の質の確保という市民に対する国の重大な責務を軽視した疑義が顕在化している(当会の平成29年10月20日付「平成29年司法試験合格発表についての会長声明」,平成30年10月13日付「平成30年司法試験合格発表についての会長声明」)。 司法試験の合格判定は,目標とされた数ありきでなされてはならず,従前にも増して,司法を担う法曹の質の維持・向上という本質的要請をふまえ,厳正に行われなければならない。 3 以上から,当会は,令和元年司法試験の合格判定にあたって,1500人程度以上とされる合格者数の確保に拘泥せず,司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定が行われることを強く求める。
令和元年7月10日
長野県弁護士会 会 長 相 馬 弘 昭
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辺野古新基地建設工事の中止を求める声明 ( 2019-07-10 ・ 188KB ) |
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沖縄県民の基本的人権と民意を尊重し,辺野古新基地建設工事の中止を求める会長声明
第1 はじめに
政府は,普天間飛行場の代替用地を米軍に提供するため,沖縄県北部の辺野古崎海域において,埋立て工事を行っている。
この埋立てについて,2019年(平成31年)2月24日,沖縄県において「普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立て」に対する賛否についての県民投票が行われ,投票率52.84%,投票総数60万5385票のうち7割を超える43万4273票が「反対」という結果が示された。この県民投票によって,辺野古新基地建設に反対する沖縄県民の民意が改めて明確に示されたといえる。 この問題について,当会は,次のとおり,法的問題点を指摘し,辺野古新基地建設工事の中止を求める。 第2 法的問題点
1 憲法13条及び14条との関係 現在,日本の国土面積の約0.6%を占めるにすぎない沖縄県に, 在日米軍専用施設の70.6%(面積)が集中している(2017年〔平成29年〕1月1日現在)。そのため,沖縄県内では,米軍基地の存在に起因する航空機事故や米軍人・軍属等による事件が絶え間なく発生し(日米地位協定により容疑者の身柄が日本側に引き渡されないという事態も生じた),軍事訓練や騒音等によって睡眠障害や健康被害が生ずるなど生活環境が破壊されるのみならず,自然環境も破壊されるに至っている。この上,普天間飛行場の代替として辺野古に新基地を建設し,米軍基地が増大・強化・固定化することは,沖縄県民の尊厳を踏みにじるものであって,個人の尊厳を定める憲法13条の精神に反し,沖縄県民が安全かつ平穏に生活することを基調とする「幸福追求権」(13条)をさらに侵害すると共に,平和的生存権を脅かしかねない過酷な負担を特定の地域の住民に課することになり,「法の下の平等」(14条)にも反することになる。 2 地方自治との関係
日本国憲法は,地方自治制度の運営が「地方自治の本旨」(92条)に基づいて行われることを保障している。「地方自治の本旨」には,団体自治と住民自治の2つの要素が認められるが,後者に関しては,地方公共団体における行政は,これにより利益を受ける当該住民の直接的な政治意思に基づいて行わなければならないといった(直接)民主主義の理念を強く打ち出したものである。このことは,国の施策であったとしても,特定の地方公共団体の住民の利害に大きな影響を与える事項については,当該住民の民意を可及的に尊重しなければならないということに帰着する。上記県民投票は,辺野古新基地建設に反対する沖縄県民の民意が改めて明確に示されたものといえることから,その民意は上記住民自治の観点から最大限に尊重されなければならない。しかしながら,政府は,上記県民投票後も埋立て工事を続行しており,かかる政府の行為は住民自治の理念ひいては民主主義そのものを軽視するものというべきである。 そして,日本国憲法第95条が「一の地方公共団体のみに適用される特別法は,法律の定めるところにより,その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ,国会は,これを制定することができない。」と定めている趣旨からしても,特定の地域の住民に対し,人権侵害にも繋がる過度な負担を強いるような場合においては,当該住民の自己決定権や政治的意思をまずもって尊重すべきであるから,政府としては,上記県民投票の結果を一層重んじなければならないはずである。 3 行政不服審査法との関係
上記埋立て工事は,県知事による公有水面埋立て承認の取消し処分について,沖縄防衛局長が行政不服審査法に基づく処分の取消し(本案)及び執行停止を申し立て,国土交通大臣が「審査」し,執行停止決定がなされた上で,実施されている。 しかしながら,そもそも行政不服審査法は,「国民の権利利益の救済を図る」(同法1条)ための法律であることから,「国民」とは異なり「固有の資格」において処分の相手方となる者については明示的に適用除外としている(同法7条2項)。このことから,上記公有水面埋立て承認の取消し処分において,国は,公有水面埋立法によって与えられた特別な法的地位(固有の資格)にあるから,行政不服審査法に基づく審査請求や執行停止の申立てを行うことは許されないはずである。それにもかかわらず,国の機関である沖縄防衛局長によってなされた行政不服審査法に基づく申立ては,行政不服審査制度を濫用したものであるとの批判を免れない。 その後,本案について,国土交通大臣は,2019年(平成31年)4月5日,沖縄防衛局長の審査請求を認める裁決(処分の取消し)を行ったが,かかる国土交通大臣の裁決についても同様の批判を免れないと言うべきである。 第3 最後に
現在,長野県内各地においても,米軍輸送機の低空飛行やオスプレイの飛行が何度も確認されている。沖縄県における在日米軍基地の問題は,沖縄県だけの問題ではなく,長野県を含む我が国に居住するすべての個人の基本的人権に直結する問題であり,日米安全保障条約や日米地位協定のあり方についても,全国民による議論が必要であると当会は考える。 よって,当会は,沖縄弁護士会が2018年(平成30年)12月10日可決した「辺野古新基地建設が,沖縄県民にのみ過重な負担を強い,その尊厳を踏みにじるものであることに鑑み,解決に向けた主体的な取り組みを日本国民全体に呼びかけるとともに,政府に対し,沖縄県民の民意を尊重することを求める決議」に賛同の意を表するとともに,先の大戦において,一木一草焦土と化し,4人に1人が亡くなったともいわれる熾烈な地上戦が繰り広げられ,しかも,1972年(昭和47年)の本土復帰まで27年間にわたり,米国の施政権下にあり,戦後平和憲法の下でも軍事施設の負担を余儀なくされてきた沖縄県に対し,これ以上過重な基地負担を強いるべきではないと考え,政府に対し,沖縄県民の基本的人権と民意を尊重し,辺古新基地建設工事の中止を求めるものである。 以 上
2019年(令和元年)7月10日
長野県弁護士会
会 長 相 馬 弘 昭
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72回目の憲法記念日に寄せる会長談話 ( 2019-05-07 ・ 171KB ) |
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72回目の憲法記念日に寄せる会長談話
1 1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今日、72回目の憲法記念日を迎えました。新天皇即位に伴い元号が変わりましたが、改めて憲法の意義を考えてみることが大切に思えてなりません。
2 当会は、平成26年から毎年、憲法記念日に会長談話を発表してきていますが、そこでは日本国憲法の意義を確認してきました。 日本国憲法は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と国民主権を高らかに謳っています(前文第1項)。 そして、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と恒久平和主義を宣言し(前文第2項)、「われらは、全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と平和的生存権を謳う(同)とともに、戦争の放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を規定しました(第9条)。 さらに、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」(第11条)と基本的人権の尊重を保障しています。 国民主権、恒久平和主義・平和的生存権、基本的人権の尊重という日本国憲法の基本原理は、崇高な理念であるばかりでなく、日本や国際社会の歴史の教訓に基づいて、人類の叡智の成果として結実したものに他なりません。 3 日本国憲法の基本原理の根底にある最高価値は、国民はひとりひとり個人として尊重されるという「個人の尊厳」であり(憲法第13条)、これに基づく幸福追求権は、最大限の保障に浴しなければなりません。そして、幸福追求権を実現するための前提価値として個人の生命は絶対的に保障されなければなりませんし、個人の生き方の選択や人格的自律性というものも可能な限り尊重されなければならないことは言うまでもないことです。
残念ながら、現実の社会では、経済合理性の下に、子供たちや社会的弱者の生命すら軽視されているように思われます。他方で、性的マイノリティの問題に見られる様に、新しい権利(人格権)や自己実現の考え方が提起されるに至っています。 このような状況下で、日本国憲法の持つ基本的人権保障の意義は、ますます重視されなければならないと思います。 日本国憲法は、世界人権宣言や国際人権規約に先立って制定されました。しかし、その人権保障規定は、極めて先進的であり数のうえでも内容の点でも豊かなものです。その後制定された女性差別撤廃条約や子どもの権利条約なども包摂する力を持つものです。そして、これまで国内における様々な人権侵害を救済するものとして極めて有効な力を発揮してきました。また新しい人権の拡大発展や定着にも大きな役割を果たしてきました。 価値観が多様化し、社会も複雑化する中で、人権課題の解決には大きな困難が伴いますが、このような中にあってこそ、さらに日本国憲法は、新たな人権課題に対しても大きな役割を果たすことが期待されています。このような基本的人権保障の意義は一層強調されるべきであって、これを後退させてはなりません。 4 戦争と平和の問題について、この72年間、日本国憲法は、厳しい政治の現実にさらされながらも、国の最高法規として、強い規範力を発揮してきました。日本国憲法は、徹底した恒久平和主義に基づき、わが国が一度も他国と戦火を交えることなく平和と繁栄を築き、国際社会で高い信頼を得るために、大きな役割を果たしてきました。憲法第9条は、これまで現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対し大きな制約を及ぼし、海外における武力行使及び集団的自衛権の行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能してきました。
5 前述の通り、日本国憲法は、個人の尊厳を究極の価値としており、国家権力の行使は、憲法による統制の下に置かれています(立憲主義)。立憲主義のもとでは、国家権力は、恣意的に憲法を解釈したり、憲法の規定を逸脱するような法律の制定や行政権の行使をすることは許されません。
憲法改正の議論では、どのような改憲案であっても、立憲主義という統制のもとで憲法条項の機能を果たすことができるかという観点を忘れてはなりません。国家権力に恣意的な運用をもたらす危険のあるような規定は、憲法条項としてふさわしくないものと言わなければなりません。また、国民の基本的人権を侵害する危険性を拡大するおそれのある改憲案も、憲法の果たすべき役割を考えたとき、これを許すべきではありません。 6 日本国憲法の掲げる国民主権、恒久平和主義、基本的人権の尊重という基本理念は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の結晶であり、時代を超えた普遍的な価値です。日本国憲法第12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定しています。憲法改正の議論においても、「国民の不断の努力」として、深い十分な議論がなされることが望まれます。
7 私たちは、72回目の憲法記念日にあたり、日本国憲法に込められた崇高な理念とそれを守ってきた先人の努力に、改めて思いを致し、憲法の意義を胸に刻みたいと思います。 2019年(令和元年)5月3日 長野県弁護士会 会 長 相 馬 弘 昭 |
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最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明 ( 2019-07-10 ・ 125KB ) |
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最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明
1 最低賃金制度は,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もつて,労働者の生活の安定,労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに,国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。
2 長野労働局長は,平成30年10月1日,長野地方最低賃金審議会の答申を受け,長野県の地域別最低賃金を最低賃金時間額821円に改定した。しかし,最低賃金時間額821円では,労働時間が月173時間(法定労働時間,週40時間とした場合の1か月の労働時間)とすると,月額14万2033円,年収170万4396円にしかならず,労働者の生活の安定を望むことはできない。
3 また,最も高い東京都と長野県の最低賃金額の差は拡大している。平成30年に改定された東京都の最低賃金時間額985円と比して,長野県の地域別最低賃金は時給で164円,月収で2万8372円,年収で34万0464円の開きがある。東京都の最低賃金時間額は平成14年に,708円,長野県の646円とその差は時給で62円であったが,この間,東京都と長野県の賃金格差は広がり続けている。そもそも,労働力に対する価値評価が地域によって異なることには疑問があり,最低生計費は都市部と地方で差はないともいわれている。平成30年12月8日には入管法が改正され,外国人労働者の受入れが拡大されたが,時給の高い都市部へ外国人労働力が集中してしまうことが懸念され,近時の政治課題となっている。
このような格差を放置することは,県内から労働者が賃金の高い都市部へ流出する結果,長野県経済の健全な発展を阻害しかねない。 4 本会では,昨年も同内容の意見を述べたが,都市部との賃金格差に改善が見られない。
したがって,長野地方最低賃金審議会は,県内労働者の生活の安定を図り,もって経済の健全な発展を図るために,長野県の最低賃金を大幅に引き上げる答申をすべきである。 2019(令和元)年7月8日
長野県弁護士会
会 長 相 馬 弘 昭 |
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共同声明 ( 2019-02-07 ・ 155KB ) |
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司法試験合格者数のさらなる減員を求める13弁護士会会長共同声明
1 日本弁護士連合会は、2016年3月の臨時総会決議において、現行の法曹養成制度の下で、法曹志望者が毎年大幅な減少を続けており、こうした状況が続くならば我が国の司法と民主主義を担う人的基盤を脅かす危険があるとし、2015年度司法試験合格者数が1850人であった状況の中で、「まず、司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」を、可及的速やかに実現すべき緊急の課題として、全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組むことを表明した。
2 新制度発足後、現実の法的需要を大幅に超える司法修習終了者が毎年供給されてきた。加えて、裁判所における民事訴訟事件の新受件数がピーク時に比べて大幅に減少するなど法曹に対する従来型の需要は供給との関係で増加するどころか減少を続け、新しい活動領域の拡充も、供給の増加を吸収する規模には至っていないため、弁護士の過剰供給の弊害は解消されるに至っていない。司法試験に合格し、司法修習を終了した時点での12月の一括登録時に登録しない終了者数は減少してきたものの、勤務弁護士の待遇面の低下、既存の事務所に籍を置かせてもらうだけの形態や、登録後間もなく独立する形態も見られ、法曹の職業としての魅力の低下は今なお続いている。
それに伴い、2018年の法科大学院入学者数は1621人と前年に比べ83人減少し、志願者数の回復の兆しはなく、低迷した状態にある。司法試験受験者数は、2004年には4万3千人であったものが、2017年は5967人となり、さらに2018年は5238人にまで減少した。
3 政府の法曹養成制度検討会議は、2013年6月26日の取りまとめにおいて、「多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機に直面していることは否定できない」とし、新たな検討体制に法曹養成制度の速やかな検討を求めたが、法科大学院制度に対する改革については、昨年3月に中央教育審議会法科大学院等特別委員会から基本的な方向性が示されただけで、具体的な改善策は今後の課題として先送りされた。法曹養成制度の改革は未だ途上にあり、法曹の職業としての魅力は回復せず、法曹志望者の回復にはほど遠い状況にある。
4 こうした中、法務省は、昨年9月に、2018年の司法試験合格者数を1525人と発表した。2017年と比べ、合格者数が1543人から18名減少したとはいえ、受験者数が5967人から5238人へと729人減少したにもかかわらず、合格率は25.86%から29.11%へとかえって上昇している。
法曹養成制度改革推進会議が2015年6月30日付け取りまとめにおいて、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものではないことに留意する必要がある」と指摘したにもかかわらず、こうした状況は、質の確保よりも合格者数の確保を優先したものではないかと危惧せざるを得ない。
5 法曹は司法を担う人的基盤であって、司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。今、供給過剰状態を解消し、法曹の職業としての魅力を回復し、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの機会を十分に確保するなどして法曹の質を保持することは、司法制度存立の基礎を維持するために必要不可欠な事柄である。
そこで、われわれは、共同で、政府に対し、さらに司法試験合格者数を減員する方針を、速やかに採用することを強く求めるものである。
2019年(平成31年)2月5日
埼玉弁護士会 会長 島 田 浩 孝
千葉県弁護士会 会長 拝 師 徳 彦
栃木県弁護士会 会長 増 子 孝 徳
山梨県弁護士会 会長 甲 光 俊 一
長野県弁護士会 会長 金 子 肇
兵庫県弁護士会 会長 藤 掛 伸 之
富山県弁護士会 会長 橋 爪 健 一 郎
山口県弁護士会 会長 白 石 資 朗
大分県弁護士会 会長 石 井 久 子
仙台弁護士会 会長 及 川 雄 介
山形県弁護士会 会長 安 孫 子 俊 彦
秋田弁護士会 会長 赤 坂 薫
札幌弁護士会 会長 八 木 宏 樹
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会長声明 ( 2019-01-15 ・ 102KB ) |
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最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明
1 最低賃金制度は,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もつて,労働者の生活の安定,労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに,国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている。
2 平成29年10月1日,長野労働局長は,長野地方最低賃金審議会の答申を受け,長野県の地域別最低賃金を最低賃金時間額795円に改定した。従前770円であった時間額を25円引き上げたことは一定の評価が出来る。
しかし,最低賃金時間額795円では,労働者の生活の安定を望むことはできない。すなわち同賃金額では,労働時間が月173時間(法定労働時間,週40時間とした場合の1か月の労働時間)とすると,月額13万7535円,年収で165万420円にしかならない。
これはいわゆるワーキングプアの基準値の1つとして取り上げられる年収200万円に遠く及ばず,労働者の生活の安定が図れる水準ということはできない。
3 また,最も高い東京都の最低賃金時間額958円と比して,時給で163円,月収で2万8199円,年収で33万8388円の開きがある。平成29年には,東京都で時間額26円の引き上げがあったのに対し,長野県では25円の引き上げにとどまっており,賃金格差は広がっている。
このような格差を放置することは,県内から特に若者が賃金の高い都市部へ流出する結果,長野県経済の健全な発展を阻害しかねない事態を招いている。
4 したがって,長野地方最低賃金審議会は,県内労働者の生活の安定を図り,もって経済の健全な発展を図るために,長野県の最低賃金を大幅に引き上げる答申をすべきである。
平成30年7月9日
長野県弁護士会
会 長 金 子 肇
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会長声明 ( 2018-10-23 ・ 127KB ) |
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司法試験におけるいわゆるギャップタームの解消策に関する会長声明
1 法曹志望者の激減という現象を受け、現在、法曹養成制度に関する様々な改善が検討されているところ、その1つとして、司法試験におけるいわゆるギャップタームの解消策が検討されている。例えば、毎日新聞の平成30年5月18日付報道によれば、「法曹養成制度に関する与党検討会」が同年4月にまとめた緊急施策で、法曹コース導入に向けた法改正に加え、優秀な法科大学院生は在学中に予備試験なしで司法試験の受験を認めることも打ち出し、法務、文科両省と最高裁判所は現在、法改正の具体的な検討を進めている、とのことである。
2 ギャップタームとは、現行の制度において、3月末の法科大学院修了から、5月以降の司法試験受験、11月末ごろの司法修習開始までの間に8ヶ月程度の期間が存在することを指すところ、これにより、法曹志望者にとっての経済的・時間的な負担が生じ、法曹を目指すことを断念する原因の一つとなっているとの現状認識のもとに、ギャップタームの解消策として、司法試験実施時期の変更(法科大学院修了前の司法試験受験を認めるように受験要件を変更する)が取り上げられている。具体的には、司法試験の実施時期を現状より1年程度前倒しし、法科大学院既修2年目・未修3年目の前期の早い時期(例えば5月)に実施し、後期開始前(例えば8月)に司法試験の合格発表を行うなどの案が検討されているとのことである。
3 しかしながら、現行の制度が司法試験受験要件として、法科大学院の修了を要件としたのは、「「点」のみによる選抜から「プロセス」としての新たな法曹養成制度に転換するとの観点から、その中核としての法科大学院制度の導入に伴って、司法試験も、法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えるべきである」との観点から、法科大学院を修了した者に司法試験の受験要件を与えることとしたのであり、法科大学院を修了していない者に受験資格を与えることは、当初の制度理念と矛盾するものである。
また、司法試験の実施時期を大幅に前倒しすることとなれば、司法試験の出題内容について、法科大学院の授業進度に配慮し、出題範囲を限定したり、難易度を低下させるなどの本末転倒な事態を招く危険性も高い。
さらに、法曹志望者が激減しているにも関わらず、司法試験合格者数が1500人程度に固定化され、合格者の質の確保に疑念が生じている現状に鑑みれば、司法試験の実施時期を前倒しすることは、勉学不十分な者が受験することで、受験者の更なる質の低下を招き、ひいては更なる司法試験合格者の質の低下を招く懸念がある。
4 そもそも、法曹志望者の激減の原因は、弁護士に対する需要を見誤り、司法試験合格者数を過剰に設定し、弁護士数を過剰に増員し続ける現在の誤った政策によって、将来不安等が生じることで法曹志望者がコストと時間をかけてまで法科大学院に進学することを回避するという点こそが主要なものであると考えられ、ギャップタームの存在は主たる原因ではない。したがって、ギャップタームの解消を行ったところで法曹志望者の減少を食い止める有効な手段にはなり得ない。意味に乏しいだけでなく、上記に指摘した制度理念との矛盾や司法試験の内容の劣化、司法試験合格者の質の低下といった重大な弊害を生じさせかねないギャップタームの解消策は、採用すべきではない。
現在必要なのは、そのような小手先の弥縫策ではなく、司法試験合格者数を減員し、有為な人材が安心して法曹への道を目指せるような政策変更を行うことである(当会の平成29年6月24日付「適正な弁護士数に関する決議」)。そもそも、法科大学院を中核とした法曹養成制度そのものが、真に合理的な制度であるかどうかが問い直されるべき時期にあり、法科大学院ありきの現在の政策は、批判的な検討の対象とされるべきである。
5 以上から、当会は、ギャップタームの解消策として司法試験の受験要件を緩和すること、司法試験の実施時期を前倒しすることに反対する。
平成30年10月13日
長野県弁護士会
会 長 金 子 肇
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会長声明 ( 2018-10-23 ・ 153KB ) |
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平成30年司法試験合格発表についての会長声明
1 9月11日、本年の司法試験の合格発表が行われ、総合点805点以上を得た1525人の受験者が合格者とされた。
2 司法試験は、法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有するかどうかを判定する国家試験である(司法試験法第1条第1項)。司法は国民の権利保護と社会正義に深く関わるものであるから、司法試験において「必要な学識と応用能力」を適切に判定し、法曹の質を確保することは、国民に対する国の重大な責務である。
法曹養成制度改革推進会議も、平成27年6月、当面、司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが、その際、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との留保を付した。
この留保の意義については、国会の衆議院法務委員会において、政府参考人である大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長が、「これは、やはり国民の権利保護の見地から法曹の質の維持を優先することとするというふうな趣旨を込めたものでありますので、この下の三行(注-前記留保部分)に沿って運用がなされることを期待したい」と答弁している(平成27年5月22日第189回国会衆議院法務委員会会議録)。政府においても、司法試験の合格判定においては、1500人以上といった合格者数の確保よりも法曹の質の維持こそを優先すべきであり、それは市民の権利保護の見地に基づく要請であって、前記留保部分はこの点に立脚した重要な運用指針であるとの見解を表明しているのである。
3 当会は、昨年の司法試験の合格判定が、上記の1500人程度以上という数値目標に拘泥して合格ラインを意図的に引き下げ、法曹の質の確保という市民に対する国の責務を軽視した疑義があること(平成29年10月20日付「平成29年司法試験合格発表についての会長声明」)を踏まえ、本年の合格判定に先立ち、改めて、1500人程度以上とされる合格者数の確保に拘泥せず、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定を行うことを強く求める旨の会長声明を発したところである(平成30年7月12日付「平成30年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明」)。
4 ところが、近年の合格率の推移を見ると、平成26年が約22.58%、平成27年が約23.08%、平成28年が約22.95%、平成29年が約25.86%と推移してきたところ、本年の合格率は約29.11%となり、昨年より約3%上昇し、平成26年ないし平成28年に比較すると約6%上昇した。
また、合格点は、平成26年が770点、平成27年が835点、平成28年が880点、平成29年が800点、本年が805点であるのに対し、全受験者の総合点について各年の分布を代表する中心的傾向を表す中央値((全受験者÷2)位の受験者が得た総合点)を見ると(短答式試験不合格者と論文式試験最低ライン点未満者は中央値より低い総合点であったと擬制した。)、平成26年が604点、平成27年が679点、平成28年が725点、平成29年が659点、本年が706点であって、本年は、合格点と前記中央値の差が、昨年比でも42点縮減し、平成26年ないし平成28年に比較すれば56~67点縮減した。
これらの数値は、各年の受験者全体の得点状況との関係における合格ラインが、昨年、本年と急落したことを意味している。
5 そして、法曹志願者が激減している現状等に照らせば、受験者全体の得点能力が近年上昇した可能性などほとんど想定しえないのであるから、上記4の合格ラインの急落は、司法試験の合格レベルが、絶対評価として、昨年、本年と急落したことを意味する。
6 かかる合格レベル急落の原因が何であるかは明らかである。
例年、司法試験の合格点は5点刻み(総合点について。以下同じ)で決定されているところ、本年の合格点は805点であり合格者数は1525人であること、810点以上を得た受験者は1466人であることからすれば、本年の合格点が805点と決定された理由は、合格点を805点に引き下げて初めて「1500人」の合格者数が確保されるという点以外なく、このようにして「1500人」の数値目標に追従した結果、合格レベルは急落したのである。
本年の司法試験合格判定は、法曹養成制度改革推進会議の取りまとめの「1500人程度」以上という数値目標を墨守するがために、「法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力」を画すべき合格判定のラインを、意図的に引き下げたものと解さざるをえない。
かかる合格判定は、司法を担う法曹の質をあまりに軽視し、市民の権利保護の要請に反するものである。取りまとめの上記留保部分を司法試験の重要な運用指針であるとする政府答弁にも背いている。
7 なお、当会は、我が国における弁護士数の適正化の観点から、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める総会決議をなしたものであり(平成29年6月24日付「適正な弁護士数に関する決議」)、本年の合格判定はその見地からも重大な疑義があることを付言する。
8 よって、当会は、本年の司法試験合格判定に対し、強く抗議する。
平成30年10月13日
長野県弁護士会
会長 金 子 肇
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会長声明 ( 2018-07-12 ・ 118KB ) |
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平成30年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
1 平成30年度の法科大学院志願者数(延べ人数)は8,058名(前年度比102名減)、法科大学院入学者数は1,621名(同83名減)に、同年の司法試験出願者数は5,811名(同905名減)、司法試験受験者数は5,238名(同729名減)にまで落ち込んだ。
ピーク時には、法科大学院志願者数が72,800名(平成16年度。延べ人数)、法科大学院入学者数が5,784名(平成18年度)、司法試験出願者数が11,891名(平成23年)、司法試験受験者数が8,765名(平成23年)であったことを考えると、上記のとおりの法曹志願者の減少は激減というべき状況にある。
このような法曹志願者激減の原因については、法科大学院修了を受験資格要件としたことで多額の学費や時間的コストを要することになった反面、司法試験合格者の多くが進路として選択する弁護士について、現実の法的需要を無視した弁護士数の過剰増員による弁護士の職業的魅力の低下、将来への不安等が生じていることが背景に存在するものと考えられる。弁護士となる資格を取得しても、将来に不安がつきまとうといった現在の制度設計では、有為な人材が法曹、ことに弁護士という職業を敬遠することは必然的な現象である。
2 司法は国民の権利義務や社会正義に深く関わるものであり、その司法を担う法曹の質の維持・向上は国民にとって重大な課題・要請である。現状のように法曹志願者の母数が激減すれば、その中の有為な人材の絶対数が減少することは道理であり、法曹の質の確保にも懸念が生じる。
法曹養成制度改革推進会議は、平成27年6月、司法試験の合格者数を年間1,500人程度以上とする検討結果を取りまとめた。しかし法曹志願者自体が激減している現状の下で、単に上記方針通りの合格者数を確保するために合格ラインが下げられてしまうのであれば、司法試験に本来要請される選抜機能は大きく損なわれ、合格者の質を制度的に担保できない事態も想定される。このような事態は、上記取りまとめにおいて示されている「輩出される法曹の質の確保を考慮」すべき、との方針にも反することとなる。現に、平成29年の司法試験については、受験者数、合格率、全受験者の総合点の中央値及び合格最低点等のデータの過去3年間との比較結果等から見て、合格判定において、上記取りまとめとしての「1,500人程度」以上に拘泥し、合格ラインが意図的に引き下げられた可能性が高く、政府が、法曹の質の確保という市民に対する国の重大な責務を軽視した疑義が生じている(当会の平成29年10月20日付「平成29年司法試験合格発表についての会長声明」)。
司法試験の合格判定は、目標とされた数ありきでなされてはならず、従前にも増して、司法を担う法曹の質の維持・向上という本質的要請をふまえ、厳正に行われなければならない。
3 以上から、当会は平成30年司法試験の合格判定にあたって、1,500人程度以上とされる合格者数の確保に拘泥せず、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定が行われることを強く求める。
平成30年7月7日
長野県弁護士会
会 長 金 子 肇
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会長声明 ( 2018-06-13 ・ 138KB ) |
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いわゆる「働き方改革関連法案」における高度プロフェッショナル制度の削除を求める会長声明
1 政府は,いわゆる「働き方改革関連法案」として,労働基準法等改正法案(以下,「本法案」という。)を国会に提出し,平成30年5月31日,衆議院で可決され,参議院に送付された。本法案については,すでに当会において,平成30年3月10日付「いわゆる「働き方改革関連法案」の改善を求める会長声明」を発出し,改善を求めているところであるが,当会が反対する高度プロフェッショナル制度の新設規定が維持されたままであり,以下のとおり,改めてその問題点を指摘し,同制度の導入に強く反対する。
2 高度プロフェッショナル制度は,対象労働者には労働基準法が定めた長時間労働を抑止するための規定が適用されないのであるから,対象労働者の長時間労働が助長されかねない。労働時間規制は,労働者の健康の確保をもその趣旨とする以上,高収入を得ているからといって,労働時間規制の適用を除外してよいということにはまったくならず,過労死遺族らが,過労死を助長する危険な制度であるとして強く反対するとおり,労働者の心身の健康を蔑ろにする法案であるといわざるを得ない。
また,政府は,労働者側にとっても柔軟な働き方を可能にするもので導入の必要性が高い旨主張するが,国会審議の過程において,労働者側のニーズが確認されたとは到底いえず,むしろ経営者側の時間外労働に関する割増賃金負担削減のニーズを無批判に取り入れようとする法改正であることは明白である。
さらに,この制度の対象となる業務の範囲は曖昧であるため,対象業務の範囲が拡大解釈されるおそれとともに,具体的な対象職種を政令で定めることとされているため,将来,安易に拡大される懸念が存在する。いわゆる労働者派遣法においても,当初は専門職等13業務のポジティブリスト方式を用いて限定されていたものが,政令によって定められていたために拡大が容易となり,その後の対象業務の追加,ネガティブリスト方式への転換などによって広範囲に拡大され,我が国の社会に不安定な非正規雇用の蔓延を招いたことは記憶に新しいところである。いったん高度プロフェッショナル制度の導入を認めてしまえば,上記と同様の事態が発生することは容易に予想される。
収入要件を設けて,対象労働者を限定する点についても,具体的な収入要件は「厚生労働省令で定める」とされているため,この制度導入後,法律の改正によらず,省令の改正という民主的統制の及びにくい手段により,収入要件の額を引き下げて適用対象となる労働者の範囲を拡大させることも容易である。また,省令で規定される額が1075万円を参考に検討されているが,高度プロフェッショナル制度の前身である「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」(日本経済団体連合会 2005年6月)では,年収400万円以上の労働者が適用対象者として想定されていたことを考慮すると,最終的には,決して高収入とはいえない労働者までもが適用対象者とされてしまう危険性があることは看過できない。
また,労働者が同意してこの制度が適用されても,自らの意思によって同意の撤回をできるとの規定については,労働者が勤務先企業の意向に背いて同意を撤回すること自体が企業組織の中では現実的とはいえず,制度の弊害を解消する方法としてはほとんど無意味である。
3 以上のとおり,高度プロフェッショナル制度については,過労死問題が重要な社会問題となっている中,労働者の長時間労働をかえって助長し,ひいては過労死の危険を増大させるとともに,労働者の待遇を低下させかねない重大な問題が存在する。企業の国際的競争力強化のために労働者保護を不当に緩和することは,長期的には国民の活力を奪い,社会を疲弊させることとなる近視眼的な政策であり,将来の我が国の社会に禍根を残すものと言わざるを得ない。
当会は,労働者の人権擁護の観点から,本法案より高度プロフェッショナル制度の新設規定を削除するよう参議院に対し強く求めるものである。
以 上
平成30年6月9日
長野県弁護士会
会 長 金 子 肇
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71回目の憲法記念日に寄せる会長談話 ( 2018-05-03 ・ 180KB ) |
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71回目の憲法記念日に寄せる会長談話
1 1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今日、71回目の憲法記念日を迎えた。
現在、憲法を巡る情勢は新たな局面を迎えつつある。すなわち、自由民主党は、具体的な改憲案の取りまとめを行い公表しており、戦後初めて憲法の具体的改正条項案が国会で審議されようとしている。今後の議論の進展によっては、国会での発議、国民投票をも視野に入れていると報じられている。 現在議論されている具体的改憲案の一つには、憲法9条の改正案があり、とりわけ現行の9条1項2項を維持したまま必要な自衛の措置を認め自衛隊の存在を明記する条項を加える案が議論されている。また、国家緊急権に基づく緊急事態条項の導入なども提案されている。 2 日本国憲法は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と国民主権を高らかに謳っている(前文第1段)。 そして、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と恒久平和主義を宣言し(前文第2段)、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と平和的生存権を謳う(同)とともに、戦争の放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を規定した(第9条)。 さらに、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」(第11条)と基本的人権の尊重を保障する。 この71年間、私たちの社会や、わが国をとりまく国際情勢は大きく変わったが、日本国憲法は、厳しい政治の現実にさらされながらも、国の最高法規として、強い規範力を発揮してきた。日本国憲法は、徹底した恒久平和主義に基づき、わが国が一度も他国と戦火を交えることなく平和と繁栄を築き、国際社会で高い信頼を得るために、大きな役割を果たしてきた。とりわけ憲法9条について言えば、これまで現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対し大きな制約を及ぼし、海外における武力行使及び集団的自衛権の行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能してきた。 このような日本国憲法の意義、これまで果たしてきた役割は、日本にとっても国際社会にとっても極めて重要なものであり、今後、進められるであろう憲法改正の議論においても、この意義や役割は決して忘れてはならず、いかなる憲法改正条項であっても、これらの意義や役割を喪失させたり、後退させることがあってはならない。 日本国憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される」こと(第13条)を究極の価値としている。そのために、国家権力の行使は、憲法による統制の下におかれる(立憲主義)。憲法改正の議論においては、いかなる改憲案であろうとも、立憲主義という統制のもとで憲法条項の機能を果たすことができるかという観点を忘れてはならない。いやしくも、国家権力に恣意的な運用を許すようなあいまいかつ不明確な規定は、憲法条項としてふさわしくないものと言わなければならない。また、国民の基本的人権を侵害する危険性を拡大するおそれのある改憲案も、憲法の果たすべき役割を考えたとき、これを許すべきではない。 3 このような観点から見たとき、現在議論されている改憲案は、極めて大きな問題を孕んでいると言わざるを得ない。 まず、現行の9条1項2項を維持したまま必要な自衛の措置を認め自衛隊の存在を明記するという改憲案については、必要な自衛の措置の内容や自衛隊の任務・権限の内容について一義的に明確に定められていないのであるから、憲法上許される自衛権の行使の限界について多様な解釈の余地を残している。その結果、現行の9条1項2項が残されたとしても、解釈如何では、自衛隊の活動の範囲が際限なく広がり恒久平和主義を後退させる危険性を孕んでいる。また、立憲主義の見地からは、前述の通りあいまいな規定の結果、必要な自衛の措置の内容や自衛隊の活動を統制する機能を果たしうるか甚だ疑問であるばかりか、逆に自衛隊を憲法上位置づけることによって強い正統性が付与され、その結果として、自衛隊の権限の拡大や基本的人権の制約を招くことが懸念される。現行の9条1項2項を残すとしても、必要な自衛の措置を認め自衛隊を憲法に明記することが権力の統制という観点から見た場合、どのような結果をもたらすのか、そして私たちの生活に、わが国の将来にどのような影響を及ぼすのか、慎重な検討が必要である。 次に、国家緊急権に基づく緊急事態条項については、一時的であるにしても三権分立を停止し、国会の有する立法権や予算制定権を内閣もしくは内閣総理大臣に委ねるものであり、基本的人権を侵害するおそれを大きく広げるものである。大規模災害等が理由とされているが、現行の災害対策基本法などにより法的制度は十分に確立されているとの指摘もあり、改憲の具体的必要性、立法事実が存するのか甚だ疑問であると言わざるを得ない。 4 日本国憲法の掲げる国民主権、恒久平和主義、基本的人権の尊重という基本理念は、時代を超えた普遍的な価値である。憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定している。憲法改正の議論においても、この観点に基づき、「国民の不断の努力」として、深い十分な議論がなされることが望まれる。いやしくも時の政権や国会での多数派が、その数の力によって拙速かつ強行的に改憲手続を進めることはあってはならないことである。
5 また、憲法改正について国民投票が必要であることを定めた憲法96条の趣旨である国民主権は、国民が国家意思の形成に直接的に参与する権利をも認めるものであるが、国民投票さえ実施すればその趣旨が達成されるというものではない。とりわけ、日本国憲法の理念や基本原理に深く関わる改憲案の場合、その是非を判断するために十分な情報が国民に示され、国会や国民の中での検討時間を十分に確保するなど、熟議できる機会が保障されなければならず、それに加え、国民投票も公正・公平な手続を通じて実施されなければならない。
この点において、憲法改正手続法(国民投票法)には、最低投票率の定めのないこと、テレビ・ラジオ等における有料広告が投票期日前14日間のみの禁止にとどまっていること、公務員・教員の国民投票運動の規制の規定があいまいなことなど、検討されるべき課題が未だ残されたままとなっている。この問題は、国民投票年齢を18歳とすることに関連し選挙権を18歳とする公職選挙法の改正がなされたこと以外、この法律の成立時、参議院において18項目の附帯決議で指摘されている点について、ほとんど議論もなされていないことにも示されている。 このままでは、前述した公正・公平な手続としての国民投票が実現できるのか危ぶまれるところであり、憲法改正の重要性に鑑みれば、これらの検討改善が図られないまま、国会での発議、国民投票の実施はすべきではないと考える。 6 私たちは、71回目の憲法記念日にあたり、日本国憲法に込められた崇高な理念とそれを守ってきた先人の努力に、改めて思いを致すところである。そして、私たち弁護士は、現憲法の下に存在する弁護士法の定めの意味を改めてかみしめたいと思う。すなわち、私たちは、「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命とする者として(弁護士法第1条第1項)、基本的人権が尊重され、法の支配が貫徹される社会を実現するため、法律制度の改善に一層の努力を続けなければならない(同条第2項)という職業上の責務を実現するべく、憲法改正の議論においてもその職責を果たしていく決意である。
2018(平成30)年5月3日
長野県弁護士会 会 長 金 子 肇 |
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会長声明 ( 2018-03-14 ・ 143KB ) |
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生活保護基準について一切の引き下げを行わないよう求める会長声明
1 厚生労働省は、2017(平成29)年12月14日、社会保障審議会生活保護基準部会がとりまとめた「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」を公表した。これを受けて、政府は、生活保護のうち生活費や光熱費などにあたる生活扶助費部分について、2018(平成30)年10月から3年かけて段階的に引き下げ、国が負担する金額で年160億円(1.8%)を削減する方針を決めた。内訳は、児童手当に相当する「児童養育加算」は40億円のプラスとなるが、食費や光熱費に充てる部分が180億円減、ひとり親世帯を対象にした「母子加算」が20億円減になる。
当初、減額幅の大きい都市部や母子世帯などでは生活扶助費が最大13%程度減額されるということであったが、その後、批判を受けて、減額幅を5%程度に縮小するとされた。しかし、引き下げそのものの方針は変わらない。 2 今回の基準引き下げの考え方は、生活扶助基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた下位10%の層)の消費水準に合わせるというものである。
しかし、捕捉率(生活保護を利用することができる人のうち実際に制度を利用している人の割合)は15.3%から32.1%にすぎない(2010(平成22)年4月9日付厚生労働省発表の「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)。すなわち、生活保護を受ける要件があるにもかかわらず生活保護基準以下の収入で生活している世帯も多く、この世帯はこの第1・十分位層に含まれていることになる。また、第1・十分位層の消費水準が最低限度の生活の需要を満たす十分なものであるかどうかの検証は一切行われていない。この点の検証がないまま、生活保護基準以下で暮らす者が含まれる第1・十分位層を生活保護基準との比較対象とする手法で判断すれば、生活保護を受けている層の支給水準も引き下げられることとなり、生活保護基準を際限なく引き下げることになりかねない。この点、2017(平成29)年12月14日に公表された社会保障審議会生活保護基準部会報告書においても、「一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準の水準を捉えていると、比較する消費水準が低下すると絶対的な水準を割ってしまう懸念があることから、これ以上下回ってはならないという水準の設定についても考える必要がある。」との懸念が示され、また、特に子どもの貧困に関しては、「子どもの健全育成のためには、食費や被服費などの学校外活動以外の費用も必要であり、その部分について一般低所得世帯との均衡だけで考えてしまうと、学校外活動以外の子どもの健全育成に必要な費用が十分に手当されない」との懸念も示されており、前記手法の問題点が指摘されている。 3 生活保護基準は、住民税の非課税基準、国民健康保険料の減免基準、介護保険の利用料や保険料の減免基準、就学援助金制度の利用基準、保育料の負担額、日本司法支援センターの民事法律扶助の援助基準など、生活の中の多様な分野の施策に連動し、最低賃金の指標にもなっている。政府は、生活保護を受けていない世帯への支援制度には影響させないようにすると発表したが、2013(平成25)年の基準引き下げの際には、自治体の独自事業である就学援助制度において多くの市区町村で支給基準が下げられ、多数の世帯が対象外となった。同様のことが起こらないとは限らない。生活保護基準の引き下げは、生活保護の手前で生活している中低所得層を直撃し、ひいては国民生活全体の水準を引き下げかねない。前記報告書も、2013(平成25)年の基準引き下げによる他制度への影響は、対象が広範囲に及び「十分な検証を行うことができなかった」とする。十分な検証なしに安易に基準を引き下げるべきではない。
4 言うまでもなく、現行の生活保護基準は、利用者に余裕のある贅沢を許すものではなく、保障されるのは「最低限度」の生活にすぎないのであって、その生活の実態は決して楽ではない。
上記引き下げ方針は、低所得者層の生活実態を踏まえない安易な弱者切り捨て政策となりかねず、生活保護世帯をさらに追い詰め、貧困層をより貧困にし、経済的に裕福でない層を中心に国民生活の消費水準全般を下げ、低所得者層の生活に重大な影響を与えるものである。 憲法第25条1項の健康で文化的な最低限度の生活を保障するという趣旨に照らせば、生活保護制度の検証と見直しは、単に第1・十分位層との比較といった引き下げの結論ありきの数字の操作ではなく、生活保護利用者を含む低所得者層の生活の実態を踏まえてなされるべきである。 したがって、当会は、今般の生活保護基準引き下げに強く反対し、一切の引き下げを行わないよう求める。 平成30年3月13日 長野県弁護士会 会 長 三 浦 守 孝 |
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会長声明 ( 2018-03-14 ・ 109KB ) |
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「谷間世代」の不平等の是正措置を求める会長声明
1 2017年(平成29年)4月19日,司法修習生に対して修習給付金を支給する改正裁判所法(以下,本法という。)が成立し,これにより2017年(平成29年)の司法修習生から基本給付金として月額13万5000円,さらに必要に応じて住居給付金(上限3万5000円)及び移転給付金が支給されることになった。
本来,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ市民の権利を実現する社会的インフラであり,これを担う法曹となる司法修習生は,公費をもって養成されるべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し,給与が支払われてきた(給費制)。 しかし,この給費制は,2011年(平成23年)に廃止され,司法修習のために必要な資金を貸与する制度に変更された(以下,貸与金という。)。これ以後の司法修習生は,大学・法科大学院での奨学金債務に加えて,貸与金として数百万円の債務を負担せざるを得ない状況になるなど,重い経済的負担を強いられていた。 2 本法は,これらの問題の解消に資するものであったが,2011年(平成23年)から2016年(平成28年)の間に司法修習生となった人ら(いわゆる「谷間世代」)に対し何らの措置もなされておらず,谷間世代とその他の世代では,司法修習の意義・実態は何も異ならないにもかかわらず,谷間世代のみが重い経済的負担を強いられることになり著しい不平等を生じさせている。この谷間世代は約1万1000人に達し,法曹の全世代の約4分の1を占めており,看過することのできない問題である。また,2017年(平成29年)10月11日に開催された「新65期から第69期までの会員の声を聴く会」において,谷間世代の弁護士からは「貸与金と奨学金を合わせると1000万円を超える。この返還を考えると,無報酬の社会的・公益的活動に積極的に参加することに躊躇を覚える」等の声が上がるなど,法曹が果たすべき基本的人権の擁護や社会正義の実現という使命にも影響が与えかねない状況である。 2011年(平成23年)に司法修習生となり貸与金の支給を受けた人らは、早くも本年7月からその償還を迫られ、経済的負担が顕在化することになる。これらの問題を放置することは,世代間の平等を損なうのみではなく,法曹が果たすべき使命に対する意識まで変容させる危険を孕んでいる。 3 以上のことから,当会は,国会・法務省・最高裁判所に対して,いわゆる谷間世代となった法曹に対し,一律給付などの方法により現在の不平等を是正する措置を講じるとともに,同是正措置が実施されるまでの間,本年7月から開始される貸与金の償還を一律猶予するよう求める。 以上
2018年(平成30年)3月13日
長野県弁護士会
会長 三 浦 守 孝
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働き方改革関連法案の改善を求める会長声明 ( 2018-03-12 ・ 165KB ) |
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いわゆる「働き方改革関連法案」の改善を求める会長声明
1 政府は,「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」に基づく労働基準法等改正法案(以下,「本法案」という。)を2018年の通常国会に提出する予定であるとしている。本法案には,勤務間インターバル制度の普及・促進や不合理な待遇差を解消するための規定の整備など,評価すべき点もあるが,以下のとおり,重大な問題も存在しており,当会は,本法案の早急な改善を強く求める。
2 いわゆる企画業務型裁量労働制の拡大について いわゆる企画業務型裁量労働制は,一定の業務に従事する労働者についてみなし時間制を許容するものとして,1998年の労基法改正によって導入されたものである。しかし,労基法が予定する実労働時間に基づく1日8時間,1週40時間の労働時間規制の重大な例外となることから,対象業務が限定されているところ,本法案では,現行法における対象業務を「課題解決型開発提案業務」及び「裁量的にPDCA(事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務)を回す業務」にまで拡大するとされていた。安倍首相らは,本通常国会の衆議院予算委員会において「厚労省の調査によれば,裁量労働制の労働時間は一般よりも短いというデータもある」と答弁において説明していたが,当該「データ」は裁量労働制の人に対し「1日の労働時間」を聞いたのに対し,一般の人に対し「1ヶ月で最も長く働いた日の残業時間」を聞いた結果を比較する不適切なものであったり,明らかに誤りを含んだ回答に基づくデータであることなどが判明したことから,答弁を撤回し,裁量労働制の対象拡大の部分を本法案から切り離すことを決めた。また,政府は,裁量労働制について実態調査をやり直す方針も示している。 しかしながら,労働政策研究・研修機構の調査によると,裁量労働制の1ヶ月の平均労働は一般労働者のそれよりも長く,この調査結果からすると,裁量労働制の導入・拡大によって当該労働者の労働時間が増えることは明らかである。また,ここでいう「課題解決型開発提案業務」「裁量的にPDCA(事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務)を回す業務」は,いずれもその定義が抽象的であり,いったん導入されれば,実際には裁量性を有しない労働者についてまでも広く濫用される可能性が高く,単なる営業部員や小規模な評価管理業務担当者までが企画業務型裁量労働制対象として取り扱われ,本来であれば適用されるべき時間外割増賃金等の保護を受けられない労働者が増加し,際限のない無償の長時間労働にさらされる危険性を有する。 よって,このような改正は今後も到底許容されるべきものではない。 3 いわゆる高度プロフェッショナル制度の導入について 政府は,上記のとおり,裁量労働制についてデータの誤りを認め,この拡大の部分は本法案から切り離したにもかかわらず,いわゆる高度プロフェッショナル制度については本法案に残している。しかしながら,この制度は,対象労働者には労働基準法が定めた,長時間労働を抑止するための規定が適用されないのであるから,対象労働者の長時間労働が助長されることとなる。 政府は,この制度を時間ではなく成果で評価される労働形態の創設としているが,同制度は対象労働者について成果型賃金を採用することを要件とはしていないことに留意する必要がある。また,この制度の対象となる業務の範囲が曖昧であるため,対象業務の範囲が拡大解釈されるおそれが強い。また,本法案では,収入要件を設けて,対象労働者を限定することとしているが,労働時間規制は,労働者の健康の確保をもその趣旨とする以上,高収入を得ているからといって,労働時間規制の適用を除外してよいということにはまったくならないし,将来的に収入要件が引き下げられないという保障はない。収入要件は「厚生労働省令で定める」とされているため,この制度導入後,法律の改正によらず,政令の改正という民主的統制の及びにくい手段により,適用対象となる労働者の範囲を拡大することも容易である。いったんこのような制度が導入されると,今後,経済界からの要請によって,際限なく適用範囲が拡大していくおそれが高い。 よって,高度プロフェッショナル制度の導入についても本法案から切り離し,撤回されるべきである。 4 時間外労働時間の限度時間について
本法案においては,現在時間外限度基準告示によって規制されている36協定上の時間外労働時間を法律に格上げし,違反について罰則による規制を盛り込むものであり,この限度において評価できるものである。 しかしながら,本法案においては,通常予見できない業務量の増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合における特例として,時間外労働1ヶ月あたり100時間未満,複数月の平均80時間未満とする労使協定の締結を認めており,この点には,労働者の保護の観点から見て重大な問題がある。 この特例の限度時間については,いわゆる過労死認定基準「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(平成13年12月12日基発第1063号)における過重負荷の有無の判断に際して参考とされる時間外労働時間が念頭に置かれたものと思われるが,同基準はあくまで過労死の労災認定基準であり,これと同様の上限時間を立法化し,合法化するなどということは過労死を惹起しうる危険性の高い長時間の時間外労働を政府が積極的に容認するに等しく,いわゆる過労死等防止対策推進法の理念とも矛盾するものであり,およそ不適切である。 5 以上のとおり,本法案については,過労死問題が重要な社会問題となっている中,いずれも労働者の長時間労働をかえって助長し,労働者の待遇を低下させかねない重大な問題を有する改正が含まれており,政府が,過労死問題に取り組む姿勢の真摯性についても疑わざるを得ない内容である。労働基準法をはじめとする労働法令は,「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」(労働基準法1条)との文言どおり,労働者の保護をもっとも重要な目的とすべきものである。この精神に反する改正点を含む本法案は「働き方改革」法案の名に値しないと言わざるを得ない。
当会は,労働者の人権擁護の観点から,上記の点に関する本法案の改善を強く求めるものである。 以 上
平成30年3月10日 長野県弁護士会
会 長 三 浦 守 孝
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少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明 ( 2018-01-31 ・ 192KB ) |
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少年法の適用年齢引き下げに改めて反対する会長声明
第1 声明の趣旨
当会は、少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることに改めて反対する。 第2 声明の理由
1 はじめに すでに、当会は、2015年(平成27年)7月6日に少年法の適用対象年齢を引き下げることに反対する会長声明を発しているところである。 しかし、現在、法務省の法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会において、少年法の適用対象年齢を現行の20歳未満から18歳未満に引き下げることの是非を審議していることから、同部会の議論状況に鑑み、改めて本会長声明を発するものである。 2 法制審議会における議論状況
法制審議会において少年法の適用対象年齢の引き下げの是非に関して交わされたこれまでの審議の結果、現行の少年法が18歳及び19歳の少年の健全な育成と更生を図る上において有効に機能していることについては各委員の間においても格別の異論がないものと解される。 一方、今後、民法の成年年齢が18歳に引き下げられた場合には、民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢が異なることは法的な整合性という観点から問題があるのではないかという指摘がなされてもいる。 そして、同審議会は、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法、手続法の整備に関する審議の内容を踏まえ、少年法の適用対象年齢の引き下げの是非についてさらに検討を進めるのが適当であるとして、現在、犯罪者に対する処遇についての審議をしているところである。 3 民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢の関係
当会としては、民法の成年年齢を18歳に引き下げること自体に反対をする会長声明(2017年(平成29年)8月5日)を発しているところであるが、仮に民法の成年年齢が18歳に引き下げられたとしても、そのことを理由として少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げなければならないものではない。 すなわち、ある法規範の適用対象年齢をどのように定めるかということは、当該法規範の趣旨や目的に照らして個別具体的に検討されるべき問題であり、民法の成年年齢から他の法規範の適用対象年齢が一律に定められるべきものではない。 このことは、現行法上も、婚姻可能年齢(男性18歳、女性16歳)、喫煙・飲酒可能年齢(20歳)、被選挙権年齢(衆議院25歳、参議院30歳)といったように、法規範ごとに適用対象年齢が異なっていることを見ても明らかである。 そして、民法の成年年齢と少年法の適用対象年齢の関係についても、戦前の旧少年法においては適用対象年齢を18歳未満と定めており、民法上の成年年齢(20歳)とは一致していなかったことを見ても両者が必ずしも一致しなければならない性質のものではないことが分かる。なお、その後、少年法の適用対象年齢が20歳未満に引き上げられたが、それは少年法が果たすべき役割の重要性からして18歳及び19歳の者に対しても少年法を適用することが望ましいという理由によるものであって、民法上の成年年齢と合致させるべきであるとの理由によるものではなかったと理解されている。 一方、民法の成年年齢に達した者に対して少年法を適用することは過度なパターナリズム(保護主義)であるとの指摘もある。
しかし、少年法上の処遇はパターナリズムという観点のみではなく、少年の健全な育成を通じて再犯の防止を図ることなども含めた総合的な刑事政策的観点に基づいて理解されるべきものであり、民法の成年年齢に達した者に対して少年法を適用することが過度なパターナリズムに当たるものであると単純に解することはできない。 現行法上も、婚姻により成年擬制がされていても20歳未満であれば少年法が適用されているが、これが過度なパターナリズムによるものであるとして特に問題とされているものではない。 4 少年法の適用対象年齢を引き下げる立法事実がないこと
少年法の適用対象年齢を引き下げるか否かという問題は、少年の健全な育成と更生を図るという少年法の目的を達成する上で適用対象年齢を引き下げることが有効か否かという観点から検討されるべき問題である。 そして、現行の少年法は18歳及び19歳の少年の健全な育成と更生を図る上において極めて有効に機能しているということができる。 すなわち、現行の少年法においては、いわゆる全件送致主義のもと、20歳以上の者であれば微罪処分や起訴猶予処分にされてしまうような比較的軽微な事件についても家庭裁判所による調査の対象として、心理学や社会学などの専門的知見を有する家庭裁判所調査官が行動科学(医学、心理学、教育学、社会学、社会福祉学等)の知識や技法を活用して、非行の経緯、動機、態様のみならず、少年の生育歴、家庭環境、生活状況、交友関係、心身の状態等を総合的に調査し、少年が非行に至った原因とその背景(非行メカニズム)を科学的に解明するとともに、再非行に至る危険性の予測をした上で、少年の更生と健全な育成を図り、再非行を防止するための教育的な働きかけを行っているところである。 また、一定の場合には家庭裁判所裁判官の観護措置決定に基づいて少年を一定期間少年鑑別所に収容し、専門家である法務(心理)技官や法務教官及び医師が、24時間体制での行動観察や面接、心理検査、検診等を行って少年の性格や資質などの鑑別をしている。 さらに、弁護士が少年の付添人に選任された場合には、付添人の立場からも非行の原因や背景を調査するとともに少年の更生と立ち直りを図り、再非行を防止するため、少年に寄り添いつつ少年自身の内省が深まるように働きかけをしたり、家庭環境や生活環境の改善を図るために被害者や少年の親をはじめとする関係者との調整を行ったりしているのである。 これらの多面的で重層的な調査、鑑別と働きかけがなされることによって、これまでに多くの少年がそれぞれに抱えてきた問題を認識し、それを克服しようと努力をして立ち直っていくことができ、その結果として再非行も防止されてきたということができる。 このように、現行の少年法は、18歳及び19歳の者を含む少年の健全な育成と更生を図るという同法の目的を達成する上において極めて有効に機能してきたのであって、少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げて18歳及び19歳の者を少年法上の処遇から除外しなければならない事情(立法事実)が存在しないことは明らかである。 むしろ、18歳及び19歳の者が少年法上の処遇から除外されることによって更生をする機会が失われて再犯のリスクが高まることが容易に予想され、社会の安全にとっても深刻な悪影響をもたらしかねないことは2015年の前記会長声明においても指摘したとおりである。 5 厳罰化すべき必要性がないこと
以上に対して、18歳及び19歳の者を少年法上の処遇から除外することによって、これらの者の大人としての自覚を促し、その結果としてこれらの者の健全な育成と犯罪の抑止が図られるとする意見も見られる。 しかし、2015年の前記会長声明でも指摘したように、現行の少年法においては、故意の犯罪により人を死亡させた重大事件については、原則として裁判員裁判を経て刑事罰を科すものとされ、行為時に18歳以上の少年については死刑判決を選択することも可能とされているほか、平成26年には、少年に適用される刑の上限を引き上げる法改正もなされたばかりである。 このように、現行の少年法を前提としても、少年に対し、その犯した罪に応じた刑事罰を科すことは十分に可能なのであって、上記法改正の効果についての然るべき検証もなされないままにさらなる厳罰化をすることは立法事実を欠くものであって適切ではないと言わざるを得ない。 6 刑事政策的措置について
前記のように、法制審議会では、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法、手続法の整備に関する審議の内容を踏まえた上で、さらに少年法の適用対象年齢引き下げの是非についての検討を進めるのが適当であるとして、現在、犯罪者に対する処遇についての審議を進めている。 もとより、現行法制上における刑事政策的措置については20歳に達した途端に少年法に基づく調査や教育的処遇を受けられなくなるなどの点で、改善・充実すべき課題が少なくないことはたしかである。 しかし、これらの課題については、本来、少年法の適用年齢対象を引き下げるか否かという問題とは切り離して、十分な時間をかけて慎重に検討されるべきものであり、少年法の適用対象年齢を引き下げるための手当てという観点からこの問題を議論するのであれば、それは引き下げという結論ありきの議論であると言わざるを得ない。 7 結論
以上のとおりであるから、当会は、少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに改めて反対するものである。 以上
2018年(平成30年)1月30日
長野県弁護士会会長 三 浦 守 孝
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会長声明 ( 2017-12-18 ・ 131KB ) |
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長野県教委「学校における働き方改革推進のための基本方針」についての会長声明
1 本年11月15日,長野県教育委員会は,「学校における働き方改革推進のための基本方針」(以下,「方針」という。)を決定した。
方針は,公立小中学校の教員において,質の高い授業を実現すること,教員の長時間勤務(長時間労働)を改善することを目標としており,当会は,特に教員の過労状況の改善という観点から,方針の示した取組について賛成する。 当会は,このような意欲的な取組を長野県教育委員会が方針として掲げたことを高く評価し,子どもらの教育を担うべき志の高い有為な人材が,安心して教員を目指すことができるような環境整備の点からも,その速やかな実現を期待するものである。 2 その上で,当会は,方針に関し,以下の各点にも十分な留意が払われ,方針の掲げる目標に照らし,真に実効的な取組がなされることを期待する。 (1)教員の時間外労働時間について
方針でも指摘されているとおり,教員の長時間勤務の実態は深刻である。相当数の教員が,いわゆる過労死認定ラインとされる1ヶ月80時間超(発症前2か月間ないし6か月間における時間外労働)の時間外労働時間の負担にさらされている現状は,直ちに改善されなければならない。そのために,方針が1ヶ月の時間外労働について年間を通じて,原則45時間以下とするとの目標を掲げたことは,大いに評価されるべきところである。そして,そのためには,方針でも触れられているとおり,教員が本来的に担うべき業務を精選し,スリム化,効率化を図ることが必要不可欠である。 また,方針でも指摘されているとおり,教員の労働時間が客観的かつ適切な方法で把握されることも必要不可欠である。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」及び「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においては,原則として使用者が自ら現認するか,タイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として労働時間を把握することを求めており,自己申告制については客観性の担保が十分でないため,例外的なものとされている。教員についても,上記同様に,タイムカード等の機械的,客観的な記録方法によって教員の労働時間を把握すべきであり,自己申告制は採用すべきではない。 また,教員についてはいわゆる持ち帰り残業が少なくないことも指摘されており,表面的な時間外労働時間が短縮されたとしても,その分自宅等での持ち帰り残業が増えるだけとなる,といった方針の趣旨に反する事態が起らないよう,十分に留意する必要がある。仮に持ち帰り残業を行わざるを得ない場合には,その時間も含めて労働時間を算定することで,適正に労働時間を把握すべきである。 (2)部活動指導の負担軽減について 業務の分業化について,方針では,部活動指導員やスクールサポートスタッフの活用が指摘されているところ,その場合に必要な予算措置を確保することが重要であると考えられるため,予算面での裏付けが実効的になされるべきである。また,朝練廃止を含めた部活動指導の負担軽減については,保護者の理解も必要であるところ,教員もひとりの労働者であるという観点が保護者側においても十分共有されることを期待したい。なお,部活動に関する取組として,方針において中長期的な取組として指摘されている総合型地域スポーツクラブの設立や部活動の学校合同チームによる練習環境の整備,地域の指導者の育成などの地域の取組への支援についても,子どもたちの部活動への意欲に応えうるような仕組み作りを期待したい。 (3)教員の労働実態についての調査検証
今後も教員の労働実態については,適切な調査を継続的に行い,その結果を踏まえた検証を行うとともに,調査・検証の結果を,適時に県民に向けて公表されたい。 平成29年12月9日
長野県弁護士会
会 長 三 浦 守 孝 |
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長野家庭裁判所佐久支部に関する総会決議 ( 2017-12-05 ・ 338KB ) |
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2017年(平成29)年11月25日、当会は、「長野家庭裁判所佐久支部において、調査官の常駐、少年審判の取扱い、及び庁舎の建替えを求める総会決議」を採択致しました。
決議の趣旨は、下記の通りです。
記
近年の家事事件の増加、家庭裁判所の役割の重要性に鑑み、地域の司法制度が地域の住民にとって「より利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法」となるよう、どの地域の住民であってもあまねく共通の司法サービスを受けることができるように、当会及び当会会員が一丸となって活動を継続していくことを決意するとともに、裁判所及び国に対して以下の施策の実現を求める。
1 長野家庭裁判所佐久支部において、直ちに家庭裁判所調査官を常駐させること。
2 長野家庭裁判所佐久支部において、直ちに少年事件を取り扱うこと。
3 長野地方・家庭裁判所佐久支部・佐久簡易裁判所庁舎を早期に建て替えること。
4 全国の裁判所における人的物的基盤の充実にともなう支出に対応するため、司法予算を大幅に増額させること。
決議の理由は、上記PDFファイルをご覧下さい。
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司法試験合格発表についての会長声明 ( 2017-11-01 ・ 131KB ) |
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平成29年司法試験合格発表についての会長声明
1 9月12日、司法試験の最終合格者が発表された。当会は、新たに法曹となる合格者を歓迎し、今後の司法修習、実務でのOJTを通じて、法律実務家として大きく成長されることを期待する。
2 司法試験は、法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有するかどうかを判定する国家試験である(司法試験法第1条第1項)。司法は市民の権利義務と社会正義に深く関わるものであるから、司法試験を適切に運営して法曹の質を確保することは、市民に対する国の重大な責務である。 法曹養成制度改革推進会議も、平成27年6月、司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが、その際、「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との重要な留保を付している。 3 司法試験の在り方について、当会は、弁護士の急増政策に基づく急増現象により、弁護士業務の過度の商業化やOJT不足が危惧されること、法曹志願者激減に伴う司法試験の機能不全が懸念されること、弁護士制度の国家資格制度としての安定性と確実性が損なわれていることを指摘して、弁護士増加ペースを緩めるべく、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める総会決議を行った(平成29年6月24日)。また、本年の合格発表に先立ち、司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定を行うよう求める会長声明を発した(同年7月8日)。
4 ところが、本年の司法試験合格者数は1543人とされた。長年にわたり裁判官及び検察官の採用人数が抑制されている現状では、司法試験合格者の大多数が弁護士登録を行うこととなるが、今後も現在のペースで弁護士数の増加が進む場合、当会が総会決議で指摘した諸弊害は、一層増大するおそれがある。
5 さらに、たとえば、直近3年間に比較すると、合格率は平成26年が22.58%、平成27年が23.08%、平成28年が22.95%と推移してきたところ、本年の合格率は25.86%となって約3%上昇した。
また、合格点は、平成26年が770点、平成27年が835点、平成28年が880点、本年が800点であるのに対し、全受験者の総合点について、各年の分布を代表する中心的傾向を表す中央値を見ると(短答式試験不合格者と論文式試験最低ライン点未満者は中央値より低い総合点であったと擬制している。)、平成26年が604点、平成27年が679点、平成28年が725点、本年が659点であって、合格点と前記中央値の差が、本年は直近3年間に比較して14点~25点縮減している。 これらの数値的変化は、各年の受験者全体の得点状況との対比において本年は合格ラインが下がったことを示すが、法曹志願者が激減している現状等からは、本年の受験者全体の試験の解答能力が昨年までに比べて急に上昇したものとは考えにくいことからすれば、本年の合格ラインは、絶対評価としても低下した可能性が高い。そして、かかる現象は、司法試験の受験者数が大幅に減少している状況下で、合格者数は昨年並みの1500人台としたために生じたものと言わざるを得ない。 以上からすれば、本年の司法試験の合格判定は、上記法曹養成制度改革推進会議の取りまとめとしての「1500人程度以上」に拘泥し、合格ラインを意図的に引き下げた可能性が高い。 政府が、法曹の質の確保という市民に対する国の重大な責務を軽視し、「法曹の質の確保」という上記取りまとめの重要な留保を無視したのではないかとの疑義を免れない。 6 よって、当会は、本年の司法試験合格判定の適切性に懸念を表明するとともに、引き続き政府に対し、司法試験合格者数の更なる削減と厳正な合格判定の実施を求める。
平成29年10月20日
長野県弁護士会
会長 三 浦 守 孝 |
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地方消費者行政の一層の強化を求める意見書 ( 2017-09-05 ・ 160KB ) |
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地方消費者行政の一層の強化を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 国は、地方公共団体の消費者行政の体制・機能強化を推進するための特定財源である「地方消費者行政推進交付金」の実施要領について、2017年度(平成29年度)までの新規事業に適用対象を限定している点を、2018年度(平成30年度)以降の新規事業に適用対象を含めるよう改正するとともに、消費者行政の相談体制、啓発教育体制、執行体制等の基盤拡充に関する事業を適用対象に含めるよう改正し、同交付金を少なくとも今後10年程度は継続すべきである。 2 国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報の登録事務、重大事故情報の通知事務、違反業者への行政処分事務、適格消費者団体の活動支援事務など、国と地方公共団体相互の利害に関係する事務に関する予算の相当部分について、地方財政法第10条を改正して国が恒久的に財政負担する事務として位置付けるべきである。 3 国は、地方消費者行政における法執行、啓発・地域連携等の企画立案、他部署・他機関との連絡調整、商品テスト等の事務を担当する職員の配置人数の増加及び専門的資質の向上に向け、実効性ある施策を講ずべきである。 第2 意見の理由
1 地方消費者行政推進のための交付金の継続について 平成21年の消費者庁の創設及び「地方消費者行政活性化交付金」等の交付措置により、消費生活センターの設置数は501箇所(平成21年度)から799箇所に増加し(平成29年版消費者白書252頁)、平成27年末までにすべての地方自治体が何らかの消費生活相談窓口を設置するに至るなど、地方自治体の消費生活相談体制が整備されてきた。この間、地方消費者行政活性化交付金は、地方消費者行政推進交付金に変更して継続され、消費生活相談体制の整備・拡充に寄与してきている。 現在の地方消費者行政推進交付金の実施要領は、2017年度までの新規事業を適用対象事業として限定的に定め、かつ、対象となる推進事業ごとに活動期限を設定しており、地方において事業を継続するためには、期限が切れる事業から順次、自主財源化していく必要がある。ところが、ほとんどの地方公共団体の政策判断は消費者行政重視に向けて転換しておらず、また、地方財政の実情の厳しさから、財源を捻出することは容易ではない。地方自治体にとって、地方消費者行政推進交付金に代わって、地方消費者行政の体制整備・拡充を支えるだけの自主財源を確保することは困難である。このような状況下では、年々、新たな消費者問題、とりわけ高齢者の消費者被害が深刻さを増す現状に対応することはできなくなる。 以上を踏まえると、地方消費行政推進交付金の実施要領を改正し、2018年以降の新規事業も適用対象に加えるべきである。 さらに、消費生活相談体制の充実・強化とともに被害防止のための出前啓発講座等の啓発活動や悪質業者排除の法執行が一層重要となっていることに鑑み、消費生活相談員の増員及び専門性向上等の人的基盤強化についても、適用対象に位置付けるべきである。そして、これまで、8年間の地方消費者行政に対する交付金の給付によっても最低限の体制整備が未達成であることに鑑み、少なくとも同交付金を今後10年間は継続する必要がある。 2 国の事務の性質を有する消費者行政費用に対する恒久的財政負担について 消費生活情報のPIO-NET登録、重大事故情報の通知、法令違反業者への行政処分、適格消費者団体の差止関係業務などは、国と地方公共団体相互に利害関係がある事務であり、消費者被害防止のために全国的な水準を向上させる必要がある。そこで、これら国と地方公共団体相互に利害関係がある事務については、地方財政法弟10条を改正し、国が恒久的に財政負担する事務とすべきである。 なお、適格消費者団体の活動への国の財政支援は、地域の民間団体の実情に応じて支援する必要があるため、基本的に、都道府県を通じた支援として実施することが相当である。 3 地方消費者行政職員の増員と資質向上について 今後の地方消費者行政の役割は、地方公共団体内の他部署との連携による高齢者見守りネットワークの構築や官民連携によるきめ細やかな消費者啓発・見守りの実施が重要課題とされている。また、違法な事業活動に対する法執行件数が減少している現状や、商品事故に関する原因究明や商品テスト担当職員が減少している現状に鑑みれば、消費者行政担当職員の配置と専門性向上の施策も重要な課題である。 国は、地方消費者行政の担当職員の職務が、法執行部門、啓発・教育分野、地域連携の企画推進分野、他部署・他機関との連携調整など、多様な課題を担う必要があることを踏まえ、職員の増員及び資質向上に向け、具体的な政策を検討すべきである。 2017年(平成29)年9月2日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
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民法の成年年齢引下げに関する会長声明 ( 2017-08-05 ・ 121KB ) |
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民法の成年年齢引下げに関する会長声明
1 現在,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げようとする動きが具体化しているが,その必要性や消費者被害をはじめとする引下げに伴う諸問題に対する施策が十分に検討されているとは言い難く,当会は,成年年齢引下げを内容とする民法改正に反対する。
2 若年者は社会経験の不足等から,契約に必要な知識又は経験を十分に有しているとは言い難く,様々な消費者契約の被害者となっている。 現行民法は,20歳未満の未成年者の保護を図るため,未成年者が法定代理人の同意なく締結した契約等の法律行為については,契約を取り消すことができると規定する(民法第5条第2項)。 民法上の成年年齢を18歳に引き下げることは,18歳,19歳の若年者に行為能力を付与し,法定代理人の同意なく単独で有効な法律行為を行うことを可能にする反面,未成年者を保護するための上記取消権を失わせるものである。 民法の成年年齢の引下げについて,法制審議会が平成21年10月28日に採択した「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」は,若年者の消費者トラブルの現状について,①消費生活センター等に寄せられている相談のうち,契約当事者が18歳から22歳までの相談件数は,全体からみると割合は少ないものの,20歳になると相談件数が急増するという特徴があること,②悪質な業者が,20歳の誕生日の翌日を狙って取引を誘いかける事例が多いこと,③携帯電話やインターネットの普及により,若年者が必要もないのに高額な取引を行ってしまうリスクが増大していること,④若年者の消費者被害は学校などで連鎖して広がるなどの特徴があり,特に上記①及び②の事情からすると,未成年者取消権の存在が悪質業者に対する大きな抑止力になっていると考えられることから,民法の成年年齢が18歳に引き下げられ,18歳,19歳の若年者が未成年者取消権を失えば,悪質業者のターゲットとされ,不必要に高額な契約をさせられたり,マルチ商法等の被害が広まるおそれがあるなど,18歳,19歳の若年者の消費者被害が拡大する危険があると指摘している。 3 民法の成年年齢の引下げには,かかる重大な問題が存在する以上,引下げを行うには,未成年者取消権に代わり,悪質業者に対して抑止効果を持ち,消費者被害に遭ったとしても容易に被害回復することを可能とする消費者保護ルールの構築等を十分に検討し,実現することが必要不可欠である。
上記最終報告書も,成年年齢の引下げは消費者被害拡大等の問題があり,消費者被害が拡大しないよう消費者保護施策の更なる充実を図る必要があると指摘し,消費者保護施策や消費者関係教育の充実等の具体的な施策を求めているうえ,消費被害拡大防止のための有効な施策の充実が成年年齢の引下げを行う条件であるとしている。 しかし,現状では,消費者保護ルールの構築やその他の有効な施策は実現しておらず,このような状況下で,成年年齢を18歳に引き下げれば,18歳,19歳の若年者の消費者被害拡大を招く危険があり,若年者の十分な保護は図られない。 4 また,消費者被害のほかにも,離婚の際の未成年者の養育費が早期に打ち切られてしまうおそれや,未成年者に不利な労働契約の解除権(労働基準法第58条第2項)の喪失により若年労働者の保護の範囲が狭められてしまうなどの,成年年齢の引下げに伴う様々な問題点も指摘されているが,これらの問題点についても十分な検討や対策がなされているとはいえない。
5 よって,成年年齢を18歳に引き下げた場合に生じる上記問題点に対し,十分な検討や有効な施策が実現されていない以上,民法の成年年齢を引き下げることに反対するものである。
2017年(平成29)年8月5日
長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝
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会長声明 ( 2017-07-13 ・ 108KB ) |
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平成29年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明
1 司法試験をめぐる志願者減少が著しい。
平成29年度の法科大学院志願者数(延べ人数)は8,159名(前年度比119名減),入学者数は1,704名(同153名減)に,同年の司法試験出願者数は6,716名(同1,014名減),受験者数は5,967名(同932名減)にまで落ち込んだ。 ピーク時には,法科大学院志願者数が72,800名(平成16年度。延べ人数),司法試験出願者数が11,892名(平成23年)であったことを考えると,上記のとおりの法曹志願者の減少は激減というべき状況にあり看過できない。 このような法曹志願者激減の原因については,法科大学院修了を受験資格要件としたことで多額の学費や時間的コストを要することになった反面,司法試験合格者の多くが進路として選択する弁護士について,現実の法的需要を無視した弁護士数の過剰増員による就職難や,弁護士の職業的魅力の低下等が生じていることが背景に存在するものと考えられる。多くの時間的,経済的コストを課しておきながら将来に不安がつきまとうといった現在の制度設計では,有為な人材が法曹という職業を敬遠することは必然的な現象である。 2 司法は国民の権利義務や社会正義に深く関わるものであり,その司法を担う法曹の質の維持・向上は国民にとって重大な課題・要請である。現状のように法曹志願者の母数が激減すれば,その中の有為な人材の絶対数が減少することは道理であり,法曹の質の確保にも懸念が生じる。
法曹養成制度改革推進会議は,平成27年6月,司法試験の合格者数を年間1500人程度以上とする検討結果を取りまとめた。しかし,司法試験出願者が激減している現状の下で,単に上記方針通りの合格者数を確保するために合格ラインが下げられてしまうなら,司法試験に本来要請される選抜機能は大きく損なわれ,合格者の質を制度的に担保できない事態も想定される。このような事態は,上記取りまとめにおいて示されている「輩出される法曹の質の確保を考慮す」べき,との方針にも反することとなる。 したがって,今後の司法試験の合格判定は,目標とされた数ありきでなされてはならず,従前にも増して,司法を担う法曹の質の維持・向上という本質的要請をふまえ,厳正に行われなければならない。 3 以上から,当会は平成29年司法試験の合格判定にあたって,1500人程度以上とされる合格者数の確保が優先されるべきではなく,司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定が行われることを求める。 平成29年7月8日
長野県弁護士会
会長 三 浦 守 孝 |
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適正な弁護士数に関する決議 ( 2017-06-29 ・ 271KB ) | ||||||||||||||||||||||||
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適正な弁護士数に関する決議
第1 決議の趣旨 当会は、政府に対し、平成29年度以降、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める。 第2 決議の理由 1 弁護士数が過剰となったこと (1)弁護士数の増加状況 政府は、平成14年3月、今後法的需要が増大し続けるとの予測のもと、「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す。」とする司法制度改革推進計画を閣議決定した。 この結果、司法試験合格者数は年々増加し、平成19年から平成25年には2000人を超えた。平成26年、平成27年には1800人台となったものの、平成14年当時1万8838人であった弁護士数は、平成29年5月1日現在で3万9011人と倍増した。 この間、裁判官の数は平成14年時点で2288人、平成28年時点で2755人と約20%の増加、検察官の数は平成14年時点で1484人、平成28年時点で1930人と約30%の増加であるのに対し、弁護士の数は約106%増加した。 (2)法的需要予測の見込み違い ところが、法的需要が増大するという政府の予測は大きく外れ、平成18年度以降、裁判所の全新受事件数は、過払訴訟の影響を考慮しても明らかに減少傾向にある(平成18年-約500万件、平成22年-約430万件、平成26年-約350万件)。法律相談件数も、平成18年から平成25年まで年間約60万件と横ばいで推移し、増加傾向は全く見られない(弁護士会法律相談センター、法テラス、自治体の弁護士相談の総計)。 たしかに、弁護士の増加に伴いゼロワン地域が解消されたこと、刑事国選事件や民事扶助事件への対応の充実が見られることについては、一定の評価がなされるべきである。 しかし、現在では、仮に弁護士過疎地が一部残っているとしても、過疎地開業支援等の施策により対処すべきであって、弁護士数の単純増により対処すべき性質のものではないし、新たな分野で弁護士が必要とされていく可能性が皆無でないとしても、不確かな憶測を含むものであって、現在のような急激な増員を要するほどの実例が存在しているとはいえないから、これらを理由に更に弁護士を増加させる必要性は見いだせない。 (3)弁護士数の過剰 かかる状況に鑑み、富山県議会、佐賀県議会をはじめ各地の地方議会が、弁護士数はすでに過剰であるとの認識を明示したうえ、法曹人口政策の早期見直しを求める内容の決議等をなしており、長野県議会においても、昨年、弁護士人口は飽和状態にあるとして同様の決議を行っているところである。 弁護士が倍増しても訴訟や法律相談の件数が増えず、新たな分野で必要とされる実例も特段確認されていないということは、もともと社会は、これほどに多くの弁護士を必要としていなかったことに他ならない。 平成14年の閣議決定以降の推移と現状を踏まえる限り、各地の地方議会が指摘するとおり、現在、弁護士は、利用者たる市民が必要とする数を明らかに超えて増え続けており、それによる弊害を直視した対応が検討されなければならないのである。 2 弁護士数の過剰により弊害が生じていること
(1)弁護士の使命の達成が危うくなること 弁護士は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする(弁護士法1条1項)。しかしながら、弁護士数の過剰は、弁護士間の過当競争を招き、事務所経営や生活防衛のために目先の利潤を追求する傾向を強め、事件漁りや無用な訴訟への誘導、過度に高額な費用請求などが生じて市民が害される事態が危惧される。 また、弁護士には、その使命の達成のために職務の自由と独立が要請され、依頼者の「正当な利益」を実現すべきであるとされ、ときに依頼者に対しても公共的・公益的見地からの説得を試みる役割が期待される(弁護士職務基本規程第2条、第21条)。しかしながら、顧客獲得競争が激化して目先の利潤を追求する傾向が強まれば、昨今、恫喝や報復を目的として法外な請求を行なう「スラップ訴訟」の実例が報告されるように、依頼者の要求に無批判に迎合し、人権擁護や社会正義を無視した業務遂行を生みかねない。 そして、弁護士の使命を達成しようとすれば、国家権力から独立し、ときには対峙してでも市民の側に立つことを要することから、我が国では、弁護士の資格審査や懲戒を行政官庁等の監督に服させず弁護士の自律に委ねる弁護士自治が採用されている。しかしながら、弁護士業務が過度に商業化し、公共的・公益的性格が失われれば、「国家権力からの独立」は実際上の意義を失い、弁護士自治の存立基盤を危うくすること必至である。 かように、弁護士数過剰の状況は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命の達成を危うくし、我が国の弁護士制度を根底から揺るがしているのである。 (2)若手弁護士の研鑽の機会が失われていること 弁護士数の過剰を背景として、弁護士登録後に勤務弁護士として研鑽を積むことを望みながら即独やノキ弁に甘んじ、十分なOJT(on the job training)の機会を得られない新人弁護士は後を絶たない。(新人弁護士の就職難の状況は、司法修習修了後の一括登録時点の未登録者割合に顕れると言われている。平成19年度には3.3%であったものが、平成22年度に11%、平成23年度に20.1%、平成24年度に26.3%、平成25年度に28%、平成26年度に27.9%となっている(いずれも現行司法試験合格者の数値)。) 法律専門家としての技能や倫理を会得する機会を十分に持たない弁護士が実務に当たれば、市民に深刻な影響を与えることが危惧されると言わざるを得ない。 (3)法曹志願者が激減していること 弁護士数の過剰を背景として、近年、法曹志願者は目に見えて激減している。法科大学院志願者は、以下のとおり、減少傾向が顕著である。大学受験生の法学部離れも顕著であり、法曹界が有為な人材を確保することは困難となっている。 さらに、現在では大半の法科大学院が深刻な定員割れを起こし、現行の法曹養成制度が掲げる育成機能の充実は期待しがたいうえに、法科大学院入学者数が司法試験合格者数に接近しつつあり、このような状況下で、後述の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめが示唆するように1500人以上の合格者数を墨守した場合、試験制度としての正常な選抜機能が働かない事態が危惧される。
今後もかかる事態が続けば、裁判官、検察官、弁護士の平均的な質が、長期的かつ慢性的に低下していくことが憂慮されざるを得ないのである。法曹三者が、憲法をはじめとする法の運用、解釈を通じて、市民の人権を直接的に取り扱う職責を担っていることに鑑みれば、このような法曹三者の平均的な質の低下は、回避しなければならない。
(4)国家資格制度としての安定性・確実性を損なうこと そもそも我が国が弁護士について国家資格制度を採用するのは、市民の人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の重大な使命に鑑みて、高度な専門性や技術、見識を担保する必要があることによるものであり、利用者たる市民においては、必ずしも弁護士の技能や適性を十分に判断しえないことから、国家の責務としてその資格付与の条件を適切に整備し、誰もが安心して弁護士に相談・依頼できる状況を維持するためである。 特段専門的な情報や判断力を持たない一般市民においても、安心して弁護士に相談、依頼できる資格制度を構築し維持することが重要であり、一般市民の権利利益の保護に資するものである。 ところが、弁護士急増政策は上記の各弊害を生み出し、市民が本来的に国家資格制度に求める安定性と確実性を損ねる事態を招いているのである。 公認会計士についても、過剰な増員による弊害が生じ、国家資格の安定性・確実性が維持できない事態を招いたため、公認会計士試験の合格者数が政策的に減員されたとおり、国家資格の安定性等を合格者数の調整によって回復することは法曹界に特有の事態でもない。 3 当会が改めて総会決議を行なう理由
(1)平成22年度総会決議後の経緯 当会は、平成22年11月20日の臨時総会において、「政府に対し、司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策について直ちに見直し、司法試験合格者数を段階的に削減し、弁護士人口が4万人に達した以降、これを維持するため、司法試験合格者数年間1000人程度とする法律制度の運用を求める」との総会決議をなした。 この決議は、当時すでに現われていた若手弁護士のOJT不足その他の弁護士急増の弊害を挙げたうえ、弁護士総数を約4万人で均衡させるべく、増員ペースの緩和を求めるものであった。 しかるに、政府は、平成25年7月、司法試験合格者数3000人を目指す方針は撤回したものの、平成27年6月30日の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめにおいて、「法曹人口は、全体として今後も増加させていくことが相当である」とし、司法試験合格者数について、今後も「1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」るべきであるとした。 政府はこのように、当会の平成22年総会決議後も弁護士の急増ペースを抜本的に見直すことをせず、その結果、弁護士数は3万9011人に増加している(本年5月1日現在)。 (2)弁護士数の将来予測 平成28年度の司法試験合格者は1583人であったが、今後も同様に約1500人の合格者数を維持すれば、弁護士数は1、2年のうちに4万人を超え、平成55年には推計6万人を超える(弁護士白書2016年版)。そうなれば、我が国の人口減少傾向とあいまって、弁護士数の過剰による上記各弊害が一層拡大することは目に見えており、基本的人権の擁護や社会正義の実現という弁護士の使命は見失われ、弁護士業務への信頼は失墜し、弁護士自治を崩壊させていくおそれすらある。 司法試験合格者が本年度以降毎年1000人で推移するとしても、弁護士数は今後も増加し、平成53年におよそ4万9500人になると推計され、我が国の人口減少傾向を考慮すると、弁護士一人当たりの国民数は、現在より約1000人少ない約2100人となると推計されるものであるから(弁護士白書2016等に基づくシミュレーション)、本決議の趣旨が実現された場合、弁護士急増による弊害が緩和されこそすれ、市民にとって弁護士が不足するとの懸念は皆無である。 4 むすび 以上のとおり、我々弁護士が、基本的人権の擁護と社会正義の実現という本来の使命を果たし、弁護士資格制度の安定性と確実性を維持し、そして弁護士自治を維持して市民の権利利益を護り続けるためには、弁護士数が適正に維持されることが絶対不可欠である。我々弁護士が、国家権力から独立し、ときには対峙してでも、市民の側に立つべきその足場の崩壊を招くおそれある弁護士の過剰増員は、このような観点から改められなければならない。 したがって、平成29年度以降、司法試験の年間合格者を1000人以下とすべきである。 平成29年6月24日 長野県弁護士会総会 |
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修習給付金に関する会長声明 ( 2017-05-24 ・ 106KB ) |
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司法修習生に対して修習給付金を支給する制度創設にあたっての会長声明
2017年(平成29年)4月19日,司法修習生に対して修習給付金を支給する改正裁判所法(以下,本法という。)が成立した。これにより,2017年(平成29年)の司法修習生から基本給付金として月額13万5000円,さらに必要に応じて住居給付金(上限3万5000円)及び移転給付金が支給される見込みとなっている。 本来,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ市民の権利を実現する社会的インフラであり,これを担う法曹となる司法修習生は,公費をもって養成されるべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し,給与が支払われてきた(給費制)。 しかし,この給費制は,2011年(平成23年)に廃止され,司法修習のために必要な資金を貸与する制度に変更された。これ以後の司法修習生は,大学・法科大学院での奨学金債務に加えて,貸与金として数百万円の負債を負担せざるを得ない状況になるなど,重い経済的負担を強いられていた。近年,法曹を目指す者は激減しているが,こうした重い経済的負担がその一因となっていることが指摘されている。 当会は,司法修習生の重い経済的負担を解消し,本来どおり法曹養成が公費により行われるよう,そして有為の人材が経済的な理由によって法曹となることを断念することがないよう,司法修習生への給費制復活のための活動を行ってきた。本法は,この活動の確かな前進として評価できるもので,当会は,本法の成立を歓迎する。なにより,この間,当会の活動に賛同しご尽力いただいた多くの国会議員や県議会議員,市民,諸団体の方々に対し,あらためて深く感謝申し上げる。 もっとも,本法によりすべての問題が解消されたわけではない。 本法による給付金額は,司法修習のための資金として必ずしも十分ではなく,司法修習の意義・実態を踏まえて,その適正額についてさらなる検討が必要である。 さらに,より重要な問題は,本法は,2011年(平成23年)から2016年(平成28年)の間に司法修習生となった人らに対し何らの措置もなされていないということである。これらの司法修習生と,2010年(平成22年)以前に司法修習生となった人及び本法による給付を受ける司法修習生との間で,司法修習の意義・実態は何も異ならないにもかかわらず,受ける経済的支援だけが大きく異なり著しい不公平が生じることになる。 そして,2011年(平成23年)に司法修習生となり貸与金の支給を受けた人らは、早くも2018年(平成30年)7月から貸与金の返還を迫られ、経済的負担が顕在化することになるため,同世代への給費制に代わる是正措置の整備は早急に取り組むべき切迫した問題である。 よって,当会は,本法の成立をこれまでの活動の確かな前進として評価するとともに,今後も上記問題解消のため,引き続き活動に取り組む所存である。 以上
2017年(平成29年)5月22日 長野県弁護士会 会長 三 浦 守 孝 |
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70回目の憲法記念日に寄せる会長談話 ( 2017-05-08 ・ 148KB ) |
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70回目の憲法記念日に寄せる会長談話
1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今日、70回目の憲法記念日を迎えた。 日本国憲法は、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」と国民主権を高らかに謳っている(前文第1項)。 そして、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と平和的生存権を謳い、恒久平和主義を宣言し(前文第2項)、戦争の放棄と戦力の不保持、交戦権の否認を規定している(第9条)。 さらに、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」(第11条)と基本的人権の尊重を保障する。 この70年間、私たちの社会や、わが国をとりまく国際情勢は大きく変わったが、国民は、一貫して日本国憲法を支持してきた。日本国憲法は、厳しい政治の現実にさらされながらも、国の最高法規として、強い規範力を発揮してきた。日本国憲法は、徹底した恒久平和主義に基づきわが国が一度も他国と戦火を交えることなく平和と繁栄を築き、国際社会で高い信頼を得るために、大きな役割を果たしてきた。 しかし、近年、日本国憲法をとりまく状況は大きく変わろうとしている。 2013年(平成25年)12月、取材・報道の自由に委縮的効果をもたらし、国民の知る権利を侵害するおそれのある「特定秘密の保護に関する法律」が成立した。 2015年(平成27年)9月には、日本国憲法の立憲主義や徹底した恒久平和主義に違反する集団的自衛権の行使を容認し、外国軍隊に対する後方支援を拡大し、自衛隊の海外における武器使用権限を拡大する、いわゆる安全保障関連法が制定された。 そして今、思想・良心の自由を侵害し、市民生活に深刻な影響を及ぼすおそれのある、「テロ等準備罪」いわゆる「共謀罪」を新設する法案が国会に提出された。 さらに今後、憲法改正が政治課題にのぼる可能性があり、「災害対策等を理由とする緊急事態条項」の創設や9条の改正も取りざたされている。 日本国憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される」こと(第13条)を究極の価値としている。そのために、国家権力の行使は、憲法による統制の下におかれる(立憲主義)。私たちは、憲法の意義をあらためて認識するとともに、これらの動きがどのような国づくりを指向しているのか、その結果何がもたらされるのか、今一度考えなければならない。 日本国憲法の掲げる国民主権、恒久平和主義、基本的人権の尊重という基本理念は、時代を超えた普遍的な価値である。日本国憲法12条は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」と規定している。 70回目の憲法記念日にあたり、日本国憲法に込められた崇高な理念とそれを守ってきた先人の努力に思いを致すとともに、これから私たちが未来にどのような社会を引き継ぐのか、深く考える機会としたい。 そして、私たち弁護士は、「基本的人権の擁護と社会正義の実現」を使命とする者として(弁護士法第1条第1項)、基本的人権が尊重され、法の支配が貫徹される社会を実現するため、法律制度の改善に一層の努力を続けていきたいと思う(弁護士法第1条第2項)。 2017(平成29)年5月3日 長野県弁護士会 会 長 三 浦 守 孝 |
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会長談話 ( 2017-03-27 ・ 117KB ) |
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信州大学大学院法曹法務研究科の閉校にあたっての会長談話
本日、信州大学大学院法曹法務研究科(以下、「信大ロースクール」という。)の閉校式が行われる。信大ロースクールは、平成17年4月に開校したが、当会は、「自らの後継者を自らの手によって育成し、地域の司法水準を向上させる」という地域司法充実の理念のもと、関係機関に対する働きかけや市民に対する大規模な署名活動を行うなど、その構想段階から主体的に設立運動を担った。また、当会は、信州大学との間で、平成16年6月30日に「信州大学大学院法曹法務研究科に関する協定」、平成19年3月7日に「ロークリニックに関する協定」を締結するとともに、当会内に法科大学院バックアップ委員会を設置し、多数の実務家教員の派遣や、模擬裁判への講師派遣、ロークリニック・事務所訪問の受け入れ、講演活動、課外指導等を継続的かつ積極的に行ってきた。 派遣した実務家教員や、法科大学院バックアップ委員会に所属する若手会員らによる献身的な指導の甲斐もあって、信大ロースクールの修了生から、これまでに合計36名が司法試験に合格し、現在、その内の22名が当会に弁護士登録し(当会の会員の1割程度が信大ロースクールの出身者となる。)、地域に貢献する弁護士として活動している。 自らの後継者を自らの手によって育成するという理念は、相当程度は達成することができたといえる。もっとも、地域の司法水準を向上させる活動に終わりはなく、法曹養成の地域の拠点である信大ロースクールがこの3月末日をもって閉校となることは、誠に残念というほかない。 一方で、平成28年4月、信州大学には新たに経法学部が誕生し、同学部内に総合法律学科(学士課程)が新設された。長野県内において、法学分野の学士課程が設置されたのは、初めてのことである。当会の理念は、今後も息づいていく。 当会と信州大学とは、平成28年2月24日付で「信州大学と長野県弁護士会との包括連携に関する協定」を締結している。当会は、今後も、法律系人材の育成や法的実務に関する研究へ寄与する等、地域司法の充実に資する活動に邁進する所存である。 平成29年3月27日 長野県弁護士会会長 柳 澤 修 嗣 |
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会長声明 ( 2017-03-14 ・ 212KB ) |
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いわゆる共謀罪法案を国会に提出することに反対する会長声明
1 2017年2月28日,政府が「テロ等準備罪」と名称を変更して第193国会(通常国会)に提出することを明言していた共謀罪法案(以下「新法案」という。)の内容が公表された。 過去3回廃案となった共謀罪法案(以下「旧法案」という。)と新法案の主な違いは,適用の対象を「組織的犯罪集団」としたこと,処罰の対象を「共謀」から「二人以上で計画した者」に変更し,処罰条件としてその計画をした者により「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」(以下「準備行為」という。)に処罰できるとしたこと,対象となる犯罪を676から277に減らしたことである。政府は,新法案の制定目的として,国連越境組織犯罪防止条約の締結と,旧法案を提案した際には挙げていなかったテロ対策を挙げている。 さらに,新法案の内容が公表された後,新法案に「テロ」の文言がないことを強く批判されたことを受け,同年3月7日,政府は「組織的犯罪集団」を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とする修正を行った。 当会は,それでもなお,新法案を本国会に提出することに強く反対する。 2 新法案は,旧法案と同じく,既遂の処罰が原則であり未遂と予備の処罰を例外とする近代刑法の前提を大きく逸脱し,一般市民の内心の意思を処罰する監視社会を招来し,市民の日常生活を萎縮させる危険がある。
(1)政府は,新法案の対象団体を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と限定したことにより,テロ対策という目的が明らかとなり一般市民は対象にならないと説明している。 しかし「組織的犯罪集団」という概念自体が極めて曖昧な概念であるうえ,その認定は捜査機関が行う以上,恣意的な運用の危険性を払拭できない。 また,「一定の犯罪目的を有する団体が組織的犯罪集団である」という構造上,犯罪目的の認定を先行しなければ団体性は認定できず,捜査機関によって犯罪目的を有する団体であると事後的に認定された人の集まりは全て「組織的犯罪集団」とされる余地がある。現に政府は,適法な目的で設立されていた団体が犯罪目的を有するに至った際は「組織的犯罪集団」となり得る,と明言してきた。「テロリズム集団」と明示した点も,「その他」という文言によって例示に過ぎないことになり,「その他」に該当するとして処罰範囲が拡大する余地は消えない。 このように「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」という文言は何ら処罰範囲の限定に役立たない。 (2)また,「計画」とは「犯罪の合意」に他ならないところ,合意は内心と区別がし難いので思想や良心の自由を侵害する危険性が高い。「計画」は共謀共同正犯理論における共謀と同じとされるので,概括的,黙示的,順次的な「計画」が認定されうる。合意の手段も限定しないとされることから,例えば市民に広く利用されているLINEなどのメッセージアプリによる「計画」の認定もあり得る。
(3)さらに、準備行為は予備罪等の準備行為とは異なるから,事実上無限定である。また処罰条件に過ぎない以上,準備行為が行われない時点で既に捜査の対象となる。これは,市民社会に対して著しい萎縮効果をもたらす。
(4)新法案において対象となる犯罪数は,昨年8月に報じられた「テロ等組織犯罪準備罪」の676から277にまで限定された。
しかし,政府の説明は破綻している。国連越境組織犯罪防止条約を締結するためには対象犯罪を限定することは不可能であるとこれまで政府が主張してきたことと矛盾するうえ,テロ対策と関係がある犯罪は277のうち110と4割にも満たず,児童福祉法における児童淫行罪,保険業法における株主等の権利の行使に関する利益の受供与等についての威迫行為罪など,経済的利益を得るために行う組織犯罪の防止を目的とする同条約やテロ対策とは何ら関係が見出せない犯罪も数多く含まれるからである。 そもそも,対象犯罪を限定したとしても,新法案が市民社会に与える影響が甚大であることに変わりはない。新法案の存在自体が,捜査機関により市民の内心に手を入れ,捜査・処罰する余地を生むことになるからである。 (5)以上のような問題点を抱える新法案が成立した場合,捜査機関は共謀罪の捜査を名目に犯罪が実際に着手され法益が侵害される遥か以前から捜査を行う根拠を獲得する。
2016年12月1日から施行されている通信傍受の対象犯罪の拡大と相まって,電話,メール,LINEなど市民の日常生活をターゲットにした早い段階からの捜査が行われることになる。さらに施行を控えている司法取引制度が施行されれば,共謀罪への引き込みの危険性も急激に拡大する。これらの結果もたらされるのは,国民の正当な政治活動や労働組合活動,その他の活動の萎縮であり,ひいては,捜査機関による監視対象となるかもしれないとの懸念による国民の日常生活の萎縮をもたらす深刻な監視社会の到来である。 我々は,日本の社会がそのような危険な社会に変貌してしまう危険を看過できない。 3 当会も,マフィアや暴力団等による越境的組織犯罪を防止するために同条約を締結する必要性は認める。もっとも,同条約は経済的利益を得るために行う組織犯罪の防止が目的であって,テロとは何ら関係がない。
政府は,同条約は参加罪か共謀罪のいずれかの制定を義務付けているとしている。しかし,同条約を締結するにあたり,共謀罪を制定する必要はない。同条約に関する国連の立法ガイド51パラグラフは,共謀罪や参加罪などの法的概念を持たない国においては,これらの概念を強制することなく,組織犯罪集団に対する実行的な措置をとることも条約上認められる,としているからである。 4 我が国は,航空機内の犯罪防止条約(東京条約),航空機不法奪取防止条約(ヘーグ条約),民間航空不法行為防止条約(モントリオール条約),国家代表等犯罪防止処罰条約,人質行為防止条約,核物質及び原子力施設の防護に関する条約,空港不法行為防止議定書,海洋航行不法行為防止条約,大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書,プラスチック爆弾探知条約,爆弾テロリズム防止条約,テロ資金供与防止条約,及び核テロリズム防止条約の合計13のテロ対策を目的とした条約を締結している。さらに,テロを防止するための法律も多数整備されているほか,テロリストの大多数が使用する銃や刃物は銃砲刀剣類所持等取締法や軽犯罪法により所持が禁じられている。これらの現行法によって,テロは未然に防止できる。条約を批准するための環境とテロを防止するための環境は既に整っており,テロ等準備罪を新設する必要はない。
なお,昨今世界各地で拡大しているテロの多くは国内出身者が国内で引き起こすという点でホームグロウンテロと呼ばれるが,その大多数は単独で行われる。共謀罪は単独犯に適用できない以上,このテロに対する抑止力になり得ない。 5 以上のとおり,当会は,新法案を本国会に提出することに強く反対する。
2017(平成29)年3月13日 長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣 |
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会長共同声明 ( 2016-12-28 ・ 166KB ) |
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司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明
1.日本弁護士連合会は,本年3月の臨時総会決議(以下,「日弁連臨時総会決議」という。)において,現行の法曹養成制度の下で,法曹志望者が毎年大幅な減少を続けており,こうした状況が続くなら我が国の司法と民主主義を担う人的基盤を脅かす危険があるとし,平成27年度司法試験合格者数が1850人であった状況の中で,「まず,司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること」を,可及的速やかに実現すべき緊急の課題として,全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組むことを表明した。 2.制度発足後,現実の法的需要を大幅に超える2000人前後の合格者(法曹有資格者)が毎年供給される反面,裁判所の新受件数に現れているとおり,法曹に対する従来型の需要は増加するどころか近年減少を続け,新しい活動領域の拡充も,供給の増加を吸収する規模には至らなかったため,有資格者の過剰供給の弊害は年々顕在化してきた。
司法試験を合格し,司法修習を終了しても,法曹として就職・就業できない者が12月の一括登録時で400人を超え,その1ヶ月後でも200人を超えているという異常事態が,平成23年12月(一括登録時464人,1ヶ月後326人)から昨年(一括登録時468人,1ヶ月後225人)まで続いてきた。また,新人法曹が抱える貸与型奨学金や修習中の貸与資金は,利用者平均で350万円にのぼることも判明している。 こうした中で,法曹の魅力,司法試験の魅力は,年々確実かつ急速に失われてきた。その結果として,法科大学院適性試験の受験者数は,試験が開始された平成15年には5万4千人であったものが,昨年3621人,本年3286人にまで激減し,司法試験受験者も,平成16年には4万3千人であったものが,昨年は8016人となり,さらに本年は6899人にまで激減するに至っている。現状は,法曹志望者の減少傾向に歯止めが利かなくなっている状態にあり,政府の法曹養成制度検討会議が平成25年6月26日取りまとめで指摘した,「多様で有為な人材を法曹に確保することが困難となる危機」は,現実化するに至っている。 多様で有為な人材が法曹を志望せず,試験の選抜機能が働かず,就職環境や法曹に就いた後のOJTの環境も厳しいとなれば,新規法曹の質が低下することも必定である。 日弁連臨時総会決議が,昨年の1850人の現状に対し,まず1500人へと合格者数を減員することを緊急課題としたのも,現行の法曹養成制度がこのような深刻な危機の状態にあるとの認識を反映したものである。 3.法務省は,本年9月に,本年度の司法試験合格者数は1583人であると発表した。数字だけを見ると,日弁連総会決議が緊急課題とした1500人への減員に結果として近づいたともいえる。しかし,昨年度も本年度も受験者数に対する合格者数の割合(合格率)は同一の23%であるから,本年度の合格者の減少は,昨年度と比べ法曹志望者が大幅に減少した結果もたらされたという見方をする意見もあり,政策的な減員がなされたか否か明らかでない状況にある。
日弁連臨時総会決議は,「更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきもの」としているところ,現行の法曹養成制度は,法曹志望者の激減に合わせて,法科大学院適性試験や司法試験の受験者が上記の通り著しく激減した結果,制度の成熟の前提となる多様で有為な人材の確保そのものが危機に瀕する実態にある。また,現実の法的需要が,平成15年以降,倍近くに増えた法曹有資格者の過剰供給を吸収できる状態から程遠い実態にあり,そのことの弊害がますます顕在化していることも,すでに明瞭である。 この間に,法曹有資格者が,既に何年にもわたり,登録年度ごとに供給過多が発生し,そのもとで法曹界に様々な困難が積み重なっていることを考慮すれば,政府が,次年度以降に向け,さらに大幅な減員を行う方針を速やかに採用しなければ,供給過剰による弊害の進行を食い止めることはできず,社会に法曹界の魅力ある将来像を提示することは困難となり,結果として人材の法曹離れの傾向を止めることもおぼつかず,さらに法曹養成制度の危機を深めるという悪循環が繰り返されることになる。 4.法曹は司法を担う人的基盤であって,司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。いま,供給過剰による弊害の進行を食い止め,法曹を目指すことの魅力を保持することは,司法制度存立の基礎を維持するために不可欠な事柄である。
そこで,われわれは,共同で,政府に対し,次年度以降の司法試験合格者数を,さらに大幅に減員する方針を,速やかに採用することを強く求めるものである。 以 上 2016年(平成28年)12月27日 埼玉弁護士会 会長 福 地 輝 久 千葉県弁護士会 会長 山 村 清 治 栃木県弁護士会 会長 室 井 淳 男 群馬弁護士会 会長 小 此 木 清 山梨県弁護士会 会長 松 本 成 輔 長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣 兵庫県弁護士会 会長 米 田 耕 士 三重弁護士会 会長 内 田 典 夫 富山県弁護士会 会長 山 本 一 三 山口県弁護士会 会長 中 村 友 次 郎 大分県弁護士会 会長 須 賀 陽 二 仙台弁護士会 会長 小 野 寺 友 宏 福島県弁護士会 会長 新 開 文 雄 山形県弁護士会 会長 山 川 孝 秋田弁護士会 会長 外 山 奈 央 子 青森県弁護士会 会長 竹 本 真 紀 札幌弁護士会 会長 愛 須 一 史 |
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「カジノ解禁推進法案」に反対する会長談話 ( 2016-12-08 ・ 99KB ) |
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「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)
に反対する会長談話
平成28年12月8日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣 当会は,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」,以下「本法案」という。)に対して,反対の立場を表明し,同法案の廃案を求める。 本法案は,カジノ施設を含む特定複合観光施設が,「観光及び地域経済の発展に寄与するとともに,財政の改善に資するものである」として,かかる施設の推進を「総合的かつ集中的に行うことを目的」とし(第1条),一定の条件のもと民間業者がその設置運営をすることを認めるというものである。 本法案については,平成26年11月の衆議院解散で一旦廃案となったが,平成27年4月に再提出され,本年12月2日に衆議院内閣委員会において採決され,同月6日の衆議院本会議で可決され,自民党は今国会での成立を目指しているとのことである。 当会は,既に平成26年11月8日付で会長声明を出し,カジノ解禁によるギャンブル依存症及び多重債務問題の悪化,暴力団の資金源となるおそれ,青少年への悪影響等が懸念されることから,本法案に強く反対し,廃案を求めていたところである。しかしながら,今回,前記各弊害に関する十分な議論がなされないまま,拙速に本法案を通過させようとしている。 よって,当会は,本法案の成立に改めて強く反対し,廃案にすることを求める。 |
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会長声明 ( 2016-11-01 ・ 151KB ) |
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長野県子どもを性被害から守るための条例の処罰規定について
慎重な運用を求める会長声明
1 本年7月1日,県議会において,長野県子どもを性被害から守るための条例(以下,「条例」という。)が可決成立し,同日,規制項目(第17条から20条まで)以外の規定が施行された。そして,本日,処罰規定を含む規制項目が施行された。 2 子どもを性被害から守ることは重要かつ喫緊の課題であり,条例が,県全体で総合的・恒久的に取り組んでいくことを宣言し,具体的な施策を根拠付け,推進していることは評価できる。 特に,性教育の重要性は各方面から指摘されてきたところ,条例にこれが明示された意義は大きいと考える。学習指導要領の制約を超えて,子どもにとって真に必要な性教育,人権教育,情報モラル教育を徹底すべきである。 また,被害者支援の取り組みについても,県が本年7月27日開設した「性暴力被害者支援センター(りんどうハートながの)」を,子どもの救済という観点から実効的なものにしなくてはならない。同センターは,大人と子どもの区別なく性被害者を対象にしているが,子どもの特性への配慮は不可欠であり,この点についての更なる検討を求める。 その他,相談窓口の充実,県民運動・啓蒙活動の推進についても,これまでの活動を踏まえつつ,新たな施策を策定し,早急に取り組みを開始すべきである。 3 他方,処罰規定については,これまで当会がその問題性を繰り返し指摘してきたところであるが(平成25年7月16日付「淫行処罰条例の制定に反対する会長声明」,同年12月14日付「淫行処罰条例の制定に反対する意見書」,平成28年2月6日付「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明」,同年6月28日付「子どもを性被害から守るための条例案に関する会長談話」),問題性が解消されたとはいえず,また,それを正面から捉えた議論が十分に尽くされたとも言い難い状況のまま,条例に規定され,本日施行日を迎えた。
4 最も懸念される問題は,子どもの真摯な恋愛を除外できるのかという点である。これができなければ,処罰範囲は不当に拡大し,また,子どもの恋愛は過度に制約され,萎縮してしまう。
「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。」(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の規定は,真摯な恋愛か否か(可罰的か否か)の線引きの難しさゆえ,本来罰すべきでない行為に捜査が及んだり,当事者の一方的な被害申告で処罰されるといった事態が懸念される。 5 深夜外出の規制についても,「何人も,保護者の委託を受け,又は同意を得た場合その他の正当な理由がある場合を除き,深夜に子どもを連れ出し,同伴し,又は子どもの意に反しとどめてはならない」(30万円以下の罰金)の規定は,子ども本人の真摯な同意があったとしても,保護者が同意していなければ,罪に問われることになる。これも,子どもの真摯な恋愛を除外せず,子どもの自由を過度に制約するものであり,問題である。
6 捜査機関は,処罰規定のこうした問題性を十分に認識し,運用に際しては,子どもの真摯な恋愛関係に介入したり,子どもの自由を過度に制約することのないよう,特に慎重を期すべきである。
7 また,処罰規定の運用を検証する仕組みが不可欠である。個人の名誉やプライバシーに関わる情報を扱うことから,非公開の第三者機関を設置し,起訴不起訴に関わらず,本処罰規定違反の容疑で捜査権を行使した全ての事案について,その内容に踏み込んで,処罰規定の濫用がないかをチェックすべきである。
8 条例により,長野県は,子どもの性被害の根絶へ向けて新たな一歩を踏み出した。これをスタートラインとして,種々の実効的な施策が速やかに策定され,各所で具体的な取り組みが始まることを切に期待する。
それとともに,処罰規定が子どもの真摯な恋愛への介入に繋がらないよう,捜査機関に対し,その慎重な運用を強く求める。また,県に対し,処罰規定の運用を十分に検証するための仕組みを整備するよう求める。 平成28年11月1日 長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣 |
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共謀罪法案の提出に反対する会長声明 ( 2016-10-03 ・ 140KB ) |
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いわゆる共謀罪法案の提出に反対する会長声明
~内心を広範に処罰し,監視社会を招く共謀罪に断固反対する~ 1 政府は,過去に3回廃案になった共謀罪法案(以下「旧法案」という。)に関し,テロ対策の必要性
を新たな提出理由に加え,「共謀罪」という名称を「テロ等組織犯罪準備罪」に変更した組織犯罪処罰法改正案を今後の国会に提出する方針であると報じられている(以下「提出予定新法案」という。)。
2 提出予定新法案における旧法案からの主な変更点は,以下のとおりである。
(1)適用の対象について,旧法案が「団体」としていたものを,「組織的犯罪集団」とした。 (2)処罰の対象については,旧法案が単に「共謀」としていたものを「二人以上で計画した者」に変更し,かつその計画をした者が「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」という要件を追加した。 3 政府は,これらの変更点につき旧法案に対する批判に配慮したものであるとしている。 しかし,提出予定新法案は,行為を処罰し,思想や内心の意思を処罰しないという近代刑法の基本原則に反するとして廃案になった旧法案とその本質において全く異ならない。 (1)提出予定新法案の「計画」とは「犯罪の合意」であるから,従来の「共謀」と事実上同じである。 新たに追加された「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の当該犯罪の実行の準備行為が行われたとき」によっても,何ら処罰の対象行為は限定されない。この「準備行為」は,現行法上の予備罪の予備のようにそれ自体が一定の危険性を備えている必要はなく,犯罪の成立要件の限定としてはほとんど無意味である。例えば,預貯金口座から生活資金を引き出す行為も,捜査機関によって犯罪実行に向けた資金の準備行為と認定されれば立件されうることになる。 このように,内心の意思が処罰されるという点で旧法案と全く違いはない。 (2)「組織的犯罪集団」も極めて曖昧な概念であるうえ,捜査機関が認定し立件することになるため,捜査の対象となる団体が際限なく拡大される危険性は払拭できず,単なる「団体」を処罰するとした旧法案と変わりがない。 (3)対象となる犯罪も,政府はテロ対策を理由とした上で,旧法案と同じく長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪等としているため,600を超える。その結果,偽証罪(刑法第169条),虚偽通訳罪(同法第171条),虚偽告訴罪(同法第172条),賭博場開帳等図利罪(同法第186条第2項),背任罪(同法第247条),貸金業法における無登録営業の罪(貸金業法第47条)など,テロ対策とはおよそ無関係と考えられる罪の共謀までも処罰の対象となる。 4 通信傍受制度の対象犯罪の拡大が2016年12月までに施行されることにより,捜査機関が「計画」つまり「共謀」を捜査対象とする環境は既に整っている。 多くの問題点を含む共謀罪が新設されれば,捜査機関によってテロ対策の名の下に電話やメールなど市民の会話が監視され,思想信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由など憲法上の基本的人権が脅かされることになる。自由主義社会の基盤となる自由な表現活動が委縮し,市民社会の在り方が大幅に変容する可能性が高い。 5 政府が挙げていた旧法案の主な提出理由は,マフィア等の越境的組織犯罪の抑止を目的とする国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「条約」という。)批准のために必要というものであり,テロ対策は挙げられていなかった。条約は経済的な組織犯罪を対象とするものであり,テロ対策や東京オリンピック開催とは本来無関係である。 我が国には,重大な犯罪については既に60を超える陰謀罪及び共謀罪並びに予備罪・準備罪などが規定されているほか,共謀共同正犯理論もある。テロ組織等の組織犯罪集団が行う犯罪行為の大多数は銃器や刀剣など武器の事前準備を伴うことが想定されるが,それらの犯罪行為は,銃砲刀剣類所持等取締法によって未遂以前に取り締まることが可能である。条約を批准するための環境とテロを防止するための環境は既に整っており,共謀罪を新設する必要はない。 6 よって,当会は,共謀罪を内容とする提出予定新法案の提出に強く反対する。 2016(平成28)年10月3日
長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣 |
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子ども条例案に関する会長談話 ( 2016-07-01 ・ 122KB ) |
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1 現在,長野県議会6月定例会において,子どもを性被害から守るための条例案(以下,「条例案」という。)が審議されている。 条例案は,平成27年9月の「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書」(以下,「条例モデル報告書)という。)の内容に沿ったものである。県は,同報告書を受けて,本年2月1日に条例制定の基本方針を明らかにし,同月12日に骨子案を,本月10日に条例案の骨子と概要をそれぞれ公表し,16日開会の6月定例会に条例案を提出した。 2 当会は,本年2月6日に「子どもを性被害から守るための条例のモデル報告書に関する会長声明」を発し,県に対し,規制項目については慎重な検討を求めつつ,子どもを性被害から守るための教育,被害者支援その他の施策については条例を制定して積極的に推進することを求めたところである。
同声明で指摘したところは,条例案にもそのまま当てはまる。特に規制項目の問題性については,その後十分な議論が尽くされたかは疑問であり,県議会に対しては,慎重な検討を強く要望する。 3 条例案の骨子「7 子どもの性被害に関する行為の規制」(規制項目)についての問題は,子どもの真摯な恋愛を除外できているのか,という点にある。これができていなければ,子どもの恋愛は過度に制約され,また萎縮してしまう。
「何人も,子どもに対し,威迫し,欺き若しくは困惑させ,又はその困惑に乗じて,性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。」(2年以下の懲役又は100万円以下の罰金)の規定について,県は,あくまでも「威迫」「欺罔」「困惑」という要件の有無が判断されるのであって,真摯な恋愛の有無を問うものではないと説明する。 しかし,真摯な恋愛においても,見方によっては「威迫」「欺罔」「困惑」と捉えられるような行為が伴いうる。すなわち,そのような行為が真摯な恋愛か否か(可罰的か否か)という評価がどうしても求められるところであって,その線引きの難しさゆえ,本来罰すべきでない行為に捜査が及んだり,当事者の一方的な被害申告で処罰されるおそれが類型的に高いのである。 4 深夜外出の規制についても,例えば,「何人も,保護者の委託を受け,又は同意を得た場合その他の正当な理由がある場合を除き,深夜に子どもを連れ出し,同伴し,又は子どもの意に反しとどめてはならない」(30万円以下の罰金)の規定は,子ども本人の真摯な同意があったとしても,保護者が同意していなければ,罪に問われることになる。すなわち,17歳と18歳が真摯な交際をしているが,親が交際に反対している場合,この2人が深夜に外出するだけで,18歳が処罰される。これも,子どもの真摯な恋愛を除外できておらず,子どもの自由が過度に制約されているとみるべき問題である。
5 規制項目のうち,特に上記の罰則を伴う規制については,これらの懸念を正面から取り上げ,それをどのようにクリアするのか,できるのかといった議論が不可欠である。その際には,当事者である子どもの意見も十分に聴取して行われるべきである。
6 条例案は,長野県として,子どもを性被害から守るための総合的で恒常的な取り組みを宣言するものであり,上記規制項目を除いては,積極的に評価しうるものである。
そのような取り組みを一刻も早く開始すべく,上記規制項目については適宜の修正削除のうえ,条例としては早期に成立させて,前進すべきである。 平成28年6月28日 長野県弁護士会 会長 柳 澤 修 嗣 |
「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書を受けて発表された「基本的方向性」に対する会長声明
平成26年6月5日
長野県弁護士会
会 長 田 下 佳 代
平成26年5月15日,首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(以下「安保法制懇」という)が報告書を提出した。
これを受けて同日,首相は今後の検討に関する「基本的方向性」を発表した。その中で,首相は,「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときは,限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という考え方については,今後さらに研究を進めていきたいとし,その上で「憲法解釈の変更が必要と判断されれば」閣議決定を行うとした。
集団的自衛権は,「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を,自国が攻撃されていない場合にも,実力をもって阻止する権利」であり,日本が攻撃されていないにもかかわらず,実力をもって他国(同盟国等)への武力攻撃を阻止しようとするものである。これはほかでもなく,日本が他国のために戦争に参加することを意味する。集団的自衛権の行使を容認することは,たとえ限定的なものであったとしても,日本国憲法の基本原則である恒久平和主義に基づく,「戦争をしない平和国家である日本」という国のあり方を根本から変えることになる。
このような憲法の基本原則に関わる重大な解釈の変更を,時の政権の判断のみで行うことが許されるとすれば,国家権力の恣意的判断により憲法の内容をいかようにも解釈できることになり,憲法により国家権力を制限することで人権保障を図るという立憲主義が根底から覆されることになるのであって,これを認めることは絶対にできない。
また,「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときは,限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という考え方は,事実上無限定に,武力行使を認めることになるおそれが強いものである。なぜなら,「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき」という概念自体,極めて曖昧である上、それを判断するのが時の政府であることからすると,いかようにも解釈される危険性をはらむためである。ひとたび集団的自衛権の行使が憲法上許されると解釈されれば,それは,事実上無限定に集団的自衛権を認めるに等しい結果を招くおそれがある。
さらに,首相は,集団的自衛権の行使を認めることにより,「抑止力が高まり,我が国が戦争に巻き込まれることがなくなる。」としている。しかし,我が国は,第二次世界大戦終戦後,約70年間に亘り,一度として戦争の主体になっていない。一方,集団的自衛権の行使を認めた場合には,被攻撃国たる「自国と密接な関係にある外国」には戦争の主体となっている国が含まれるのであるから,その国に対する武力攻撃を実力で阻止する行動に出た場合,日本が戦争に巻き込まれるおそれは従前より格段に高まることは明らかである。そして,集団的自衛権の行使を認めた場合,実際に武力行使をするために戦地に赴くのは,まさに,「私たちの子どもや孫たち」であるかもしれないことを自覚しなければならない。首相は,「日本を取り巻く安全保障環境の大きな変化」を踏まえ,「いかなる事態においても国民の命と暮らしを守るために何をなすべきか」を考えなければならないとするが,そのような安全保障環境の大きな変化があるのであれば,なおのこと,「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」(日本国憲法前文)ために,何が正しい選択であるのか,過去の歴史に学び,国民の叡智を結集して真剣に考えなければならない。
既に,当会は,昨年11月30日に開催された臨時総会において,「集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する総会決議」を行っているところである。
当会は,この立場から,改めて,政府の憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を容認することに強く反対するものである。
商品先物取引における不招請勧誘禁止規制の緩和に反対する会長声明
2014年(平成26年)4月25日
長野県弁護士会
会 長 田 下 佳 代
1 経済産業省及び農林水産省は,本年4月5日,商品先物取引法施行規則の改正案(以下,本改正案という。)を公表し,意見募集を開始した。
本改正案は,同規則第102条の2を改正して,新たに,熟慮期間等を設定した契約の勧誘(?顧客が70歳未満であることを確認すること,?基本契約から7日間を経過し,かつ,取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあること等についての顧客の理解度を確認した場合に限る。)を,不招請勧誘(顧客の要請によらない訪問,電話勧誘)の禁止(商品先物取引法第214条第9号)の適用除外とする内容を含むものである。
2 そもそも,商品先物取引は商品先物取引業者が,取引適合性がなく取引を希望していない消費者に対して,電話や訪問により勧誘を行い,取引に引き込んで,深刻な被害を多数生じさせてきた歴史がある。商品先物取引における不招請勧誘禁止規制は,そのような被害の撲滅を図るために,2009年7月商品取引所法改正で導入されたものである(2011年1月施行)。
同法改正の際の国会審議においては,不招請勧誘禁止の対象範囲につき,「当面,一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること。さらに,施行後1年以内を目処に,規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象を見直すものとし,必要に応じて,時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること。」との附帯決議が採択された。
3 しかるに,本改正案は,上記規制導入の経緯や附帯決議を軽視し,70歳未満の顧客に対しては,法が原則的に禁止する不招請勧誘を事実上解禁するに等しいものであって,到底容認することができないものである。
本改正案のような熟慮期間の設定は,そもそも熟慮期間中に顧客が取引の危険性に気づく機会は何ら与えられていないことから,結局,無差別的な訪問電話勧誘による基本契約締結後7日間は注文をとることが出来ないというだけの意味しか持たない。実際に,かつての「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」に類似規定が設けられていたが,顧客保護のために全く機能しなかったものである。
また,顧客の理解度確認についても,現行制度の下で既に行われてきたことである。それにもかかわらず被害が絶えなかったのであるから,被害防止のために有効な手段とはいえない。
4 産業構造審議会商品先物取引分科会は,2012年8月21日付で,「将来において,不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として,実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ,不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」との報告をまとめた。
しかるに,現在も,個人顧客に対し,金の現物取引やスマートCX取引(損失限定取引)を勧誘して顧客との接点を持つや,すぐさま通常の先物取引を勧誘し,多額の損失を与えるなど,不招請勧誘禁止規制の潜脱事例が相当数報告されており,上記分科会のいう見直しを検討する前提を欠く状況にある。
5 本改正案は,透明かつ公正な市場を育成し,委託者保護を図るべき監督官庁の立場と相容れないものである上,「委託者等の保護に欠け,又は取引の公正を害するおそれのない行為」(商品先物取引法第214条第9号括弧書き)とする法律の委任の範囲を超え,施行規則によって法律の規定を骨抜きにするものといわざるを得ない。
内閣府消費者委員会も,本年4月8日付意見において,本改正案が,「消費者保護の観点から見て,重大な危険をはらむものであることに鑑み,かかる動向を看過することができず,深く憂慮し,その再考を求める」としている。
6 当会は,2013年11月25日,「改正金融商品取引法施行令に商品先物取引に関する市場デリバティブを加え,商品先物取引についての不招請勧誘禁止を維持することを求める会長声明」を公表し,総合取引所において取り扱う商品先物取引について不招請勧誘禁止規制が維持されるよう求めてきたところである。
よって,当会は,上記会長声明と同様,消費者保護の観点から,商品先物取引における不招請勧誘禁止規制を厳格に維持すべく,同規制を大幅に緩和する本改正案には,強く反対する。
以 上
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集団的自衛権行使容認の動きが強まる中で迎えた憲法記念日に当たっての会長談話
平成26年5月3日
長野県弁護士会
会 長 田 下 佳 代
本日,日本国憲法が施行されてから67年目の憲法記念日を迎えた。
しかし,日本国憲法を巡る状況は,極めて危機的なものと言わざるを得ない。すなわち,日本国憲法9条に関して,閣議決定での解釈変更により集団的自衛権の行使を容認しようとする動きが,急速に強まっているからである。
日本国憲法9条は,戦争の放棄と軍備及び交戦権の否認を明確に定めるところ,その日本国憲法9条の下で集団的自衛権の行使は認められないという政府見解は,歴代内閣が国会答弁等で繰り返し述べてきたところであり,長年にわたり国家のあり方を形成し,確立された憲法解釈である。
ところが,現在の動きは,この確立された憲法解釈を,時の一内閣の閣議決定によって,全く変えてしまおうというものである。
この動きは,日本国憲法の基本原則の一つである恒久平和主義をないがしろにするものであるとともに,憲法により国家権力を制限し人権保障を図ることを目的とする立憲主義にも真っ向から反するものであって,到底許されるものではない。
当会は,この立場から,昨年11月30日に開催された臨時総会において,「集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する総会決議」を行っているところである。
さらに,最近の報道によれば,上記解釈変更の正当性の根拠として,「砂川事件」における最高裁判決(最高裁判所昭和34年12月16日大法廷判決)が取り上げられているという。しかし,これは全く理由のない,牽強付会ともいうべき議論である。すなわち,前記砂川事件判決は,日米安保条約及びこれに基づく政府の行為が合憲か否かの憲法判断を回避した判決であるに過ぎない上,そもそも同事件においては,日本が集団的自衛権を行使できるか否かについては全く争点になっていなかったものである。そして,政府自身,この判決の後も,前述した集団的自衛権の行使は認められないとする政府見解を繰り返し述べてきたものである。
当会及び日本弁護士連合会は,これまで再三,日本国憲法が平和と基本的人権保障にとって積極的役割を果たしてきたことを表明してきた。今年の憲法記念日に当たって,当会は,改めてこのことを強く主張するものである。
そして,当会は,憲法が最高法規として国家権力を制限する立憲主義の意義も改めて訴えるものであり,政府がかかる立憲主義の意義を理解した行動をとることを強く求めるものである。
平成22年11月4日午前4時5分ごろ、秋田弁護士会所属の津谷裕貴弁護士が刃物で刺され死亡するという事件が発生した。
津谷弁護士は、現在、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会の委員長を務める等、消費者被害の防止・被害回復のため尽力してきた方であり、当会として津谷弁護士の生前の功績に敬意を表するとともに、津谷弁護士のご冥福を心よりお祈りする。
この事件については、様々な報道がなされており、現在のところ動機、背景及び犯行状況等については必ずしも明らかではないが、いずれにせよ弁護士としての職務上のトラブルから本件犯行に至った可能性が極めて高い。
このような卑劣な行為は、基本的人権を擁護し、社会正義の実現を使命とする弁護士及びその業務に対する重大な挑戦であり、いかなる理由や事情があろうとも、断じて許されるものではない。
本年6月2日には、横浜弁護士会所属弁護士がやはり職務上のトラブルから刺殺されるという事件が発生しているが、当会としては、今後も弁護士の使命を全うするため、弁護士に対する暴力行為をはじめとするいかなる卑劣な行為に対しても毅然と対処し、職務を遂行する決意である。
平成22年11月8日
長野県弁護士会
会 長 小 林 正