憲法改正手続法の施行延期を求める会長声明
1 「日本国憲法の改正手続に関する法律」(以下「憲法改正手続法」という)は,2007年5月18日に公布され,本年5月18日の施行期日が目前に迫っている。
2 当会は,2007年4月13日に「日本国憲法の改正手続に関する法律案」が一部修正の上,衆議院本会議において強行採決され参議院に送付されたことをうけて,同月27日付けで会長声明を発表した。
声明は,同法律案には,?最低投票率の定めがないこと,?公務員や教育者の運動が不当に規制されるおそれがあること,?改正案の発議から投票日まで最大180日しかなく国民の間で議論を尽くす期間として短すぎることなど,多くの問題点があることを指摘し,参議院での慎重審議を求めたものであった。
3 同法律案は一部修正されたものの,これらの問題点について改善がなされないまま,同年5月13日に参議院本会議で可決・成立した。
成立した憲法改正手続法には,当会をはじめ多くの国民の問題提起を反映して,下記のように,附則に検討事項が明記され,また,参議院日本国憲法に関する調査特別委員会においては,実に18項目の附帯決議がなされた。
? 附則第3条は,「この法律が施行されるまでの間に,年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう,選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法,成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と定めた。
? 附則第11条は,「公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう,公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と定めている。
? 18項目の附帯決議には,「本法施行までに必要な検討を加えること」として「成年年齢」,「最低投票率」,「テレビ・ラジオの有料広告規制」の3点をあげている。
しかしながら,上記の諸検討事項について,ほとんど検討がなされておらず,未だ「必要な措置」は何ら講じられていない。
4 憲法改正手続法に基づいて,2007年8月,衆参両院に憲法審査会が設置されたが,参議院においては憲法審査会の規程も議決されておらず,また,衆参両院において,いまなお憲法審査会委員の選任も全くなされていない。
5 憲法改正手続法の公布から施行まで3年の期間がおかれたのは,国民主権原理によって,国の基本法たる憲法の改正には,国民の意思が正確に反映されるよう,極めて慎重な配慮が要請されることから,少なくとも附則や附帯決議で検討すべきとされた事項については,慎重に検討した上で,周到に必要な措置を講じるためであった。
従って,この3年の間に附則及び附帯決議が求めている検討がほとんどなされておらず,必要な法制上の措置が講じられていないことは,憲法改正手続法の公布から施行まで3年の期間をおいた趣旨に反し,同法を施行するのに全く熟していないと言わざるを得ない。
6 また,そもそも上記必要な検討がなされなかったことは,憲法改正は何ら喫緊の課題ではないことを意味するものであり,重要な問題点を孕む憲法改正手続法の附則第1条本文の施行期日は上記検討が尽くされた後でなくてはならない。
このような状況下で単に施行期日到来により,憲法改正の発議ができることは民主主義に悖るものである。
7 よって,附則及び附帯決議の十分な検討期間をおくため,憲法改正手続法の施行は延期されなければならない。
2010年(平成22年)5月3日
日本国憲法の施行から63年目の日に
長野県弁護士会
会長 小 林 正
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