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司法制度調査会

委員会活動の内容

司法制度調査会では,司法制度そのものに関わる問題について調査検討し,政府,世論等に意見を提言,発表することをおもな活動とする委員会です。
近年の活動としては,①法曹人口・法曹養成問題(法的需要に照らし,弁護士の供給数(司法試験合格者数)が過剰であり,弁護士制度にゆがみを来している問題),②各種の法改正や政府の措置についての意見発表(例:検察庁法の改正問題,日本学術会議における会員推薦の拒否問題)などに取り組んでいます。
司法制度の一翼を担う弁護士会として,憲法の理念に照らし健全な司法制度を維持することを目的として,活動しています。

令和3年司法試験合格発表についての会長声明

令和3年司法試験合格発表についての会長声明

1 令和3年9月7日,令和3年司法試験の合格者が発表され,受験者3424人中,総合点755点以上を得た1421人が合格者とされた。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い日常生活すら種々の影響を受けるなか,困難に耐えて司法試験に臨んだ皆様には,改めて敬意を表したい。

2 司法試験は,法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力を有するかどうかを判定する国家試験である(司法試験法第1条第1項)。司法は国民の権利保護と社会正義に深く関わるものであるから,司法試験において「必要な学識と応用能力」を適切に判定し,法曹の質を確保することは,国民に対する国の重大な責務である。
法曹養成制度改革推進会議も,平成27年6月,当面,司法試験合格者数を年間1500人程度以上とすべきであるとする検討結果を取りまとめたが,その際,「輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」との留保を付した。
この留保の意義については,国会の衆議院法務委員会において,政府参考人である大塲亮太郎内閣官房法曹養成制度改革推進室長が,「これは,やはり国民の権利保護の見地から法曹の質の維持を優先することとするというふうな趣旨を込めたものでありますので,この下の三行(注-上記留保部分)に沿って運用がなされることを期待したい」と答弁している(平成27年5月22日第189回国会衆議院法務委員会会議録,下線は当会)。政府においても,司法試験の合格判定においては,1500人程度以上という合格者数の確保よりも法曹の質の維持こそを優先すべきであり,それは市民の権利保護の見地に基づく要請であって,上記留保部分はこの点に立脚した重要な運用指針であるとの見解を表明しているのである。

3 当会は,過去4回の司法試験の合格判定が,上記の1500人程度以上という数値目標に拘泥して合格ラインを意図的に引き下げ,法曹の質の確保という市民に対する国の責務を軽視した疑義があること等(平成29年10月20日付,平成30年10月13日付,令和元年10月15日付,令和3年2月8日付の各年の「司法試験合格発表についての会長声明」)を踏まえ,本年の合格判定に先立ち,改めて,1500人程度以上とされる合格者数の確保に拘泥せず,司法を担う法曹の質の維持・向上の要請をふまえた厳正な合格判定を行うことを強く求める旨の会長声明を発したところである(令和3年8月12日付「令和3年司法試験における厳正な合格判定を求める会長声明」)。

4 しかし,本年の合格率は,すでに合格ラインが急落した後である昨年比で見ても約2.3%上昇しており,歴年の合格率をみると,「1500人程度以上」を謳った上記取りまとめ後の平成28年以降,上昇を続けている。受験者数が急減している一方で,合格者数は「1500人程度」が維持され,微減するのみだからである。
     年   受験者数   合格者数     合格率(四捨五入)
     26   8,015人    1,810人      22.58%
     27   8,016人    1,850人      23.08%
     28   6,899人    1,583人      22.95%
     29   5,967人    1,543人      25.86%
     30   5,238人    1,525人       29.11%
     R1   4,466人    1,502人       33.63%
     R2   3,703人    1,450人      39.16%
     R3   3,424人    1,421人      41.50%

また,合格点と,全受験者の総合点について各年の分布を代表する中心的傾向を表す中央値((全受験者÷2)位の受験者が得た総合点)の差を歴年比較すると,以下のとおりとなる。(短答式試験不合格者と論文式試験最低ライン点未満者は,中央値より低い総合点であったと擬制している。)
     年   合格点  総合点の中央値  合格点-(総合点の中央値)
     26  770点    604点   166点
     27  835点    679点   156点
     28  880点    725点   155点
     29  800点    659点   141点
     30   805点    706点   99点     
     R1   810点    726点   84点
     R2   780点     721点   59点
          R3     755点     717点     38点

合格点と中央値の差が,155点→141点→99点→84点→59点→38点と急激に縮小している事実は,仮に各年の受験者全体のレベルが維持されているとしても,合格ラインが急落していることを意味する。(仮に,各年の合格ラインが前年と同程度であるとすると,「全受験者の総合点の中央値」と「合格最低点」との差は,前年とほぼ同程度になる。)
その急落ぶりは,平成30年に最も顕著であり,昨年(令和2年)がそれに次ぎ,本年の合格ラインの落差は昨年に次ぐ大幅なものである。

5 そして,法曹志願者が激減している現状等に照らせば,受験者全体の得点能力が近年上昇した可能性は想定しえないことから,上記4の相対的な合格ラインの急落は,司法試験の合格レベルが,絶対評価として見ても,平成30年以降,急落を続けていることを意味するのである。
司法試験の合格レベルが急落を続ける原因は明らかである。
例年,司法試験の合格点は5点刻み(総合点について。以下同じ)で決定されているところ,本年の合格点は755点であり合格者数は1421人であること,760点以上を得た受験者は1387人であることから,本年の合格点が755点と決定された理由は,合格点を755点まで引き下げて初めて「1500人程度」の合格者数が確保される点以外に見当たらない。
政府は今回も,「法曹となろうとする者に必要な学識と応用能力」を画すべき合格判定のラインを,「1500人程度」の数値目標を維持するため,意図的に引き下げたものと言わざるを得ない。
かかる合格判定は,司法を担う法曹の質の維持という観点を軽視し,市民の権利保護の要請に反するものであり,取りまとめの上記留保部分を司法試験の重要な運用指針であるとする政府答弁にも背馳するものである。前述したとおり,政府ですら,1500人程度の合格者を確保することが「法曹の質の維持」と緊張関係にあることを当然の前提としていたにも拘らず,その観点は無視されているに等しい。

6 当会は,我が国における弁護士数の適正化の観点から,司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める総会決議をなしたものであり(平成29年6月24日付「適正な弁護士数に関する決議」),本年の合格判定はその見地からも重大な疑義があることを付言する。

7 よって,当会は,令和3年司法試験合格判定に対し,強く抗議するとともに,「法曹の質の維持」の観点から,適正な水準まで合格ラインを引き上げる形で司法試験の運用を改善することを強く求める。

  令和3年10月9日

長野県弁護士会  
会 長  久 保 田 明 雄



適正な弁護士数に関する決議

適正な弁護士数に関する決議

第1 決議の趣旨
当会は、政府に対し、平成29年度以降、司法試験合格者数を年間1000人以下とするよう求める。

第2 決議の理由
1 弁護士数が過剰となったこと
(1)弁護士数の増加状況
政府は、平成14年3月、今後法的需要が増大し続けるとの予測のもと、「平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指す。」とする司法制度改革推進計画を閣議決定した。
この結果、司法試験合格者数は年々増加し、平成19年から平成25年には2000人を超えた。平成26年、平成27年には1800人台となったものの、平成14年当時1万8838人であった弁護士数は、平成29年5月1日現在で3万9011人と倍増した。
この間、裁判官の数は平成14年時点で2288人、平成28年時点で2755人と約20%の増加、検察官の数は平成14年時点で1484人、平成28年時点で1930人と約30%の増加であるのに対し、弁護士の数は約106%増加した。
(2)法的需要予測の見込み違い
ところが、法的需要が増大するという政府の予測は大きく外れ、平成18年度以降、裁判所の全新受事件数は、過払訴訟の影響を考慮しても明らかに減少傾向にある(平成18年-約500万件、平成22年-約430万件、平成26年-約350万件)。法律相談件数も、平成18年から平成25年まで年間約60万件と横ばいで推移し、増加傾向は全く見られない(弁護士会法律相談センター、法テラス、自治体の弁護士相談の総計)。
たしかに、弁護士の増加に伴いゼロワン地域が解消されたこと、刑事国選事件や民事扶助事件への対応の充実が見られることについては、一定の評価がなされるべきである。
しかし、現在では、仮に弁護士過疎地が一部残っているとしても、過疎地開業支援等の施策により対処すべきであって、弁護士数の単純増により対処すべき性質のものではないし、新たな分野で弁護士が必要とされていく可能性が皆無でないとしても、不確かな憶測を含むものであって、現在のような急激な増員を要するほどの実例が存在しているとはいえないから、これらを理由に更に弁護士を増加させる必要性は見いだせない。
(3)弁護士数の過剰
かかる状況に鑑み、富山県議会、佐賀県議会をはじめ各地の地方議会が、弁護士数はすでに過剰であるとの認識を明示したうえ、法曹人口政策の早期見直しを求める内容の決議等をなしており、長野県議会においても、昨年、弁護士人口は飽和状態にあるとして同様の決議を行っているところである。
弁護士が倍増しても訴訟や法律相談の件数が増えず、新たな分野で必要とされる実例も特段確認されていないということは、もともと社会は、これほどに多くの弁護士を必要としていなかったことに他ならない。
平成14年の閣議決定以降の推移と現状を踏まえる限り、各地の地方議会が指摘するとおり、現在、弁護士は、利用者たる市民が必要とする数を明らかに超えて増え続けており、それによる弊害を直視した対応が検討されなければならないのである。
 
2 弁護士数の過剰により弊害が生じていること
(1)弁護士の使命の達成が危うくなること
  弁護士は、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする(弁護士法1条1項)。しかしながら、弁護士数の過剰は、弁護士間の過当競争を招き、事務所経営や生活防衛のために目先の利潤を追求する傾向を強め、事件漁りや無用な訴訟への誘導、過度に高額な費用請求などが生じて市民が害される事態が危惧される。
また、弁護士には、その使命の達成のために職務の自由と独立が要請され、依頼者の「正当な利益」を実現すべきであるとされ、ときに依頼者に対しても公共的・公益的見地からの説得を試みる役割が期待される(弁護士職務基本規程第2条、第21条)。しかしながら、顧客獲得競争が激化して目先の利潤を追求する傾向が強まれば、昨今、恫喝や報復を目的として法外な請求を行なう「スラップ訴訟」の実例が報告されるように、依頼者の要求に無批判に迎合し、人権擁護や社会正義を無視した業務遂行を生みかねない。
そして、弁護士の使命を達成しようとすれば、国家権力から独立し、ときには対峙してでも市民の側に立つことを要することから、我が国では、弁護士の資格審査や懲戒を行政官庁等の監督に服させず弁護士の自律に委ねる弁護士自治が採用されている。しかしながら、弁護士業務が過度に商業化し、公共的・公益的性格が失われれば、「国家権力からの独立」は実際上の意義を失い、弁護士自治の存立基盤を危うくすること必至である。
かように、弁護士数過剰の状況は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の使命の達成を危うくし、我が国の弁護士制度を根底から揺るがしているのである。
(2)若手弁護士の研鑽の機会が失われていること
弁護士数の過剰を背景として、弁護士登録後に勤務弁護士として研鑽を積むことを望みながら即独やノキ弁に甘んじ、十分なOJT(on the job training)の機会を得られない新人弁護士は後を絶たない。(新人弁護士の就職難の状況は、司法修習修了後の一括登録時点の未登録者割合に顕れると言われている。平成19年度には3.3%であったものが、平成22年度に11%、平成23年度に20.1%、平成24年度に26.3%、平成25年度に28%、平成26年度に27.9%となっている(いずれも現行司法試験合格者の数値)。)
法律専門家としての技能や倫理を会得する機会を十分に持たない弁護士が実務に当たれば、市民に深刻な影響を与えることが危惧されると言わざるを得ない。
(3)法曹志願者が激減していること
弁護士数の過剰を背景として、近年、法曹志願者は目に見えて激減している。法科大学院志願者は、以下のとおり、減少傾向が顕著である。大学受験生の法学部離れも顕著であり、法曹界が有為な人材を確保することは困難となっている。
さらに、現在では大半の法科大学院が深刻な定員割れを起こし、現行の法曹養成制度が掲げる育成機能の充実は期待しがたいうえに、法科大学院入学者数が司法試験合格者数に接近しつつあり、このような状況下で、後述の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめが示唆するように1500人以上の合格者数を墨守した場合、試験制度としての正常な選抜機能が働かない事態が危惧される。
 
年度 法科大学院全志願者数(延べ人数) 入学者数
平成16年度 72,800 5,767
平成19年度 45,207 5,713
平成22年度 24,014 4,122
平成25年度 13,924 2,698
平成27年度 10,370 2,201
平成28年度 8,278 1,857
平成29年度 8,159 1,704
 
今後もかかる事態が続けば、裁判官、検察官、弁護士の平均的な質が、長期的かつ慢性的に低下していくことが憂慮されざるを得ないのである。法曹三者が、憲法をはじめとする法の運用、解釈を通じて、市民の人権を直接的に取り扱う職責を担っていることに鑑みれば、このような法曹三者の平均的な質の低下は、回避しなければならない。
(4)国家資格制度としての安定性・確実性を損なうこと
そもそも我が国が弁護士について国家資格制度を採用するのは、市民の人権を擁護し社会正義を実現するという弁護士の重大な使命に鑑みて、高度な専門性や技術、見識を担保する必要があることによるものであり、利用者たる市民においては、必ずしも弁護士の技能や適性を十分に判断しえないことから、国家の責務としてその資格付与の条件を適切に整備し、誰もが安心して弁護士に相談・依頼できる状況を維持するためである。
特段専門的な情報や判断力を持たない一般市民においても、安心して弁護士に相談、依頼できる資格制度を構築し維持することが重要であり、一般市民の権利利益の保護に資するものである。
ところが、弁護士急増政策は上記の各弊害を生み出し、市民が本来的に国家資格制度に求める安定性と確実性を損ねる事態を招いているのである。
公認会計士についても、過剰な増員による弊害が生じ、国家資格の安定性・確実性が維持できない事態を招いたため、公認会計士試験の合格者数が政策的に減員されたとおり、国家資格の安定性等を合格者数の調整によって回復することは法曹界に特有の事態でもない。
3 当会が改めて総会決議を行なう理由
(1)平成22年度総会決議後の経緯
当会は、平成22年11月20日の臨時総会において、「政府に対し、司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策について直ちに見直し、司法試験合格者数を段階的に削減し、弁護士人口が4万人に達した以降、これを維持するため、司法試験合格者数年間1000人程度とする法律制度の運用を求める」との総会決議をなした。
この決議は、当時すでに現われていた若手弁護士のOJT不足その他の弁護士急増の弊害を挙げたうえ、弁護士総数を約4万人で均衡させるべく、増員ペースの緩和を求めるものであった。
しかるに、政府は、平成25年7月、司法試験合格者数3000人を目指す方針は撤回したものの、平成27年6月30日の法曹養成制度改革推進会議の取りまとめにおいて、「法曹人口は、全体として今後も増加させていくことが相当である」とし、司法試験合格者数について、今後も「1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」るべきであるとした。
政府はこのように、当会の平成22年総会決議後も弁護士の急増ペースを抜本的に見直すことをせず、その結果、弁護士数は3万9011人に増加している(本年5月1日現在)。
(2)弁護士数の将来予測
平成28年度の司法試験合格者は1583人であったが、今後も同様に約1500人の合格者数を維持すれば、弁護士数は1、2年のうちに4万人を超え、平成55年には推計6万人を超える(弁護士白書2016年版)。そうなれば、我が国の人口減少傾向とあいまって、弁護士数の過剰による上記各弊害が一層拡大することは目に見えており、基本的人権の擁護や社会正義の実現という弁護士の使命は見失われ、弁護士業務への信頼は失墜し、弁護士自治を崩壊させていくおそれすらある。
司法試験合格者が本年度以降毎年1000人で推移するとしても、弁護士数は今後も増加し、平成53年におよそ4万9500人になると推計され、我が国の人口減少傾向を考慮すると、弁護士一人当たりの国民数は、現在より約1000人少ない約2100人となると推計されるものであるから(弁護士白書2016等に基づくシミュレーション)、本決議の趣旨が実現された場合、弁護士急増による弊害が緩和されこそすれ、市民にとって弁護士が不足するとの懸念は皆無である。

4 むすび
以上のとおり、我々弁護士が、基本的人権の擁護と社会正義の実現という本来の使命を果たし、弁護士資格制度の安定性と確実性を維持し、そして弁護士自治を維持して市民の権利利益を護り続けるためには、弁護士数が適正に維持されることが絶対不可欠である。我々弁護士が、国家権力から独立し、ときには対峙してでも、市民の側に立つべきその足場の崩壊を招くおそれある弁護士の過剰増員は、このような観点から改められなければならない。
したがって、平成29年度以降、司法試験の年間合格者を1000人以下とすべきである。

平成29年6月24日                                    
長野県弁護士会総会
 
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