通勤時間の独り言(柳澤修嗣)
2010-12-14
通勤時間の独り言
柳澤修嗣
毎朝、事務所へは自家用車で通勤します。朝餉をすませてほぼ同じ時刻に家を出ます。だいたい片道で25分程度の乗車時間です。弁護士の仕事は、ご存じのとおりストレスがたまることばかりです。車を運転しながら。今日一日の予定を思うと、ついため息が出ます。また「あの人からクレームの電話が入るのかな」と考えるだけで、このまま事務所になど行かずに新潟の方へでもドライブに行ってしまおうかと思うこともあります。
いつもはこんな感じの通勤時間ですが、ここ2年ほど、少し変わってきました。あることに気づいたのです。
毎朝8時20分頃、渋滞のなか長野大橋にさしかかると決まって自転車に乗った24,5才の娘さんが舗道上を私と反対方向へペダルを漕いで走っていきます。
暑い日も 寒い日も、同じ時刻に同じ場所で。今の若い人ですから、マイカーに乗って通勤すればよいのに、自転車にのって。
なんで、自転車に乗って通勤するこの娘さんの姿に関心がいったのか考えてみました(決してとストーカーではないので。念のため)。それは山田洋次の映画「寅さん」の中で 描かれたすてきな女性像に重なるからなのかもしれません。ヒロイン役の栗原小巻や吉永小百合は、清楚で慎ましくそしてけなげに生きる女性として描かれていました。彼女たちは、自動車ではなく自転車に乗って生活していました。そんな姿を脳裏に重ねてこの娘さんを見ているのでしうょうか。ですから「きっとこの娘は、一生懸命働いて、年老いたお父さんお母さんを支えているのだろうな」とまるで寅さんがするような空想までしてしまいます。
何時も通り過ぎるたびに、「おっ、元気そうだな。」「今日の帽子はよく似合うな」などとつぶやいています。
たまに2,3日見かけないときなどは「どうしたのかな」と心配になってしまいます(警察に捜索願も出せません。名前も何も知らないのですから)。
姿を見かけて通り過ぎるまでその時間は、ほんの僅かな時間です。私は、車を運転していますから、じっと見るわけにもいきません。毎朝の瞬間的な出会いです。でも、それだけでなんだかホッとして心が温かくなります。不思議ですね。
話をしたこともないし、おそらくこれからも話すこともない。そしてこの娘さんは、こんなおじさんと毎朝すれ違っているいることなど全く知らないでしょう。それでいいんです。
もうしばらくは、朝の通勤時間がたのしいひとときとなりそうです。
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